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175話 ページ25

待ってと寝起きで掠れた声でそう言葉をかけると、私が呼び止めた人はびくりと体を震わせこの場を去ろうとしたその動きを止める。
彼――尊奈門さんはその丸い目を更に大きくして心底驚きましたと言わんばかりの表情を浮かべていた。


いつからか眠っている時に、傍に誰かの気配を感じるようになりはじめていた。
伊作君が怪我をした私に処方してくれた痛み止めの薬は良く効いている為か、強い眠気に襲われる私にその気配を知る術は持ち合わせていなかった。


しかし、今日やっとその気配の正体を知ることが出来た。
だが、正直なところ私は正体にもしかしたらという心当たりがあった。


私が長い眠りから覚めた時、それはもうたくさんの人たちが私の元へと訪れた。
忍術学園の人達は勿論、あのタソガレドキの雑渡さんまでもわざわざ見舞いに来てくれた。
雑渡さんは正面からではなく天井からやって来た為、酷く驚いたのを今でも覚えている。


だけど、尊奈門さんの姿だけはいつの日も見る事は決してなかった。


だからこそ、そうじゃないかと思っていた今この時、私は不思議と驚きという感情を抱くことは無かった。
薬の効き目が切れかけているせいか、少しだけ傷が痛む上体をなんとか起こす。


尊奈門さんに心配させない為、精一杯なんでもないような顔を作った私は口を開いた。


「少し、話をしませんか?」


微笑みを浮かべながらそう訊ねると、尊奈門さんは目を彷徨わせながら酷く言いづらそうな面持ちで口を開いた。


「私は、貴方と話をする事なんてありません」


私から目線を外しながらそう冷たく言い放つ尊奈門さんの姿は、どこか辛く苦し気なように見えた。
尊奈門さんは言われた私よりも傷ついたという表情を浮かべゆっくりとその場を立ち去ろうとする。


「ま、待って……うぅっ!」


立ち去ろうとする彼の背を追おうと身体を動かした瞬間、ズキンッと傷が痛み思わず呻き声を出してしまった。
痛む個所を手で押さえていると、酷く慌てた様子で尊奈門さんが私の元へと駆け寄り口を開く。


「大丈夫ですかっ! 傷が痛むんですね、今伊作君か新野先生を呼んで」

「あ、あの、大丈夫ですから。落ち着いてください。本当大丈夫ですから」


わたわたと慌てる尊奈門さんを、私は大丈夫と何とか宥める。
彼が私を気遣うように触れている今の状況に場違いながらも、少し嬉しいという感情が沸きあがった。

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長月シキカ(プロフ) - mozomozoさん» コメントありがとうございます!レスが遅くなってしまい申し訳ありません。この作品ではキャラの心理描写に気をつけながら作り上げたので、mozomozo様のお言葉とっても嬉しいです^ - ^閲覧感謝です♪ (7月13日 17時) (レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
mozomozo(プロフ) - とっても素敵なお話でした。何より心理描写が綺麗で本当に惹き込まれました。 (7月1日 2時) (レス) @page30 id: c5d40106d1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:長月シキカ | 作成日時:2022年10月28日 0時

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