４２無個性 ページ42
"アンタ、ここの用務員辞めて、うちの病院に来る気ない?"
夢彦が発したこの言葉を頭の中で理解した私はすぐさま口を開いた。
私の思いはすでに決まっている。
「ないっス」
「……アンタ、少しくらい悩む素振りでもしなさいよ」
「悩むも何も……夢には悪いっスけど、自分がここをやめる気は今のとこないんスよ」
「でも、アンタ……本当はまだ医者になりたいんじゃないの?」
夢彦の昔と変わらないまっすぐな目で私を見つめる。
彼の口から出てきた言葉に私はすぐに答えることが出来ず、ソッと目を伏せた。
私のこの小さな行動を肯定と受けとったのか、夢彦はハァと一つ息をこぼす。
「やっぱりね……医学時代に使ってたソレをいまだに使っているからそうだと思ったのよ」
「……これは、ちょうどいいのが無くて」
夢彦がソレと言った長手の白衣に視線を落としつつ、そう言い訳する。
我ながら苦しい言い訳だと思う。
確かに夢彦の言うとおり、医者になりたいという気持ちが完全にないわけじゃない。
そうじゃなきゃ、医学時代に愛用していたこの白衣を後生大事に持ち着ていない。
「アンタの技術は私も一目おいてるし、アメリカでも十分やっていけると思うのよ。だから私と一緒にアメリカで仕事しましょう?」
「……」
「……まぁ返事は今じゃなくていいわ。私、今月末までは日本にいるつもりだから返事が決まったらいつでも電話をちょうだい」
口をつむぎ今答えを出すことが出来ないと判断した夢彦はそう言い、私に番号が書かれた手書きのメモを手渡してきた。
それを受け取ると、夢彦はゆっくりとソファーから立ち上がる。
私も彼にならいソファーから立ち上がり、夢彦を見送るため玄関へと足を進めた。
玄関と仮眠室はそんなに距離が離れてるわけではないため、大人の歩幅、歩くスピードであればものの数分で着いてしまう。
「見送りはここでいいわ」
「えっ? そうっスか?」
「えぇ。これ以上Aを独り占めしちゃったら悪いしね……今日はアンタと会えて、話せて、本当に良かったわ」
「こっちこそ、久しぶりに夢に会えて嬉しかったっスよ」
「じゃあ……またね」
「……また」
そう短い別れの言葉を交わし、夢彦は私に背を向けゆったりと歩み出した。
学生の頃より少しだけ大きくなった彼の背中を見えなくなるまで見送った私の頭の中に、先ほどの夢彦の言葉が旋回する。
旋回する言葉に答えを出せないまま、私はいったん職員室へ向かおうと足を進めた。
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長月シキカ(プロフ) - メホニアンさん» コメントありがとうございます！マイク先生も相澤先生もかっこいいですよね^ ^ 更新頑張りますのでよろしくお願い致します！閲覧感謝です^ ^ (2017年11月28日 13時) (
レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
メホニアン(プロフ) - トマトを食べた後のマイク先生に、キュンとしました。優しい相沢先生に惚れました。更新頑張ってください！！ (2017年11月28日 13時) (レス) id: dbe6c4db20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年11月4日 23時
