57話 むせかえる香り ページ7
「な、なんだ……これ……?」
組頭に抱えられ忍術学園へとたどり着いた私は開口一番そう言った。
というか、それしか言う言葉が思いつかなかったのだ。
以前の忍術学園からは想像もできないほど荒れており、敷地内にはむせ返るような甘ったるい匂いで充満している。
思わず咳き込む私の背中を、組頭がその大きな手の平で優しくさすってくれた。
「ありがとうございます、組頭」
「いいよ。それで、これからどうするんだ?」
「とりあえず、忍術学園の中に入りましょう。そして乱太郎君を探します」
「分かった」
私の案に賛同してくれた組頭は軽々と塀から忍術学園の敷地内へと侵入する。
そんな彼をまねて私もヒョイっと地面に向かって飛び降りたが、すぐに後悔した。
「いっっっってぇーー……」
「大丈夫かい?」
「うぅ。大丈夫です」
「そう。じゃあ、行くよ」
「はい!」
痛む足を数回さすり、私は彼に手を引かれその場を歩き出した。
その彼の手は風邪をひいて私の額に乗せてくれたあの時と同じ冷たさが私の手のひらに伝わる。
その冷たさがどこか気恥ずかしくなり、私は自分の頬に熱が集まるのを感じた。
いやいや、今はそんな事を考えている場合ではない!
そう思い首を左右に振り、気持ちを切り替える。
兎に角、早く乱太郎君を探さなければ。
「A!」
「へ、うわッ!?」
突然組頭は、私の手を引いて建物の影に身を潜める。
こうなると必然的に私は、組頭の広い胸元に顔を押し付ける状態になってしまい、私は頭の中であわあわとパニック状態に陥ってしまった。
しかし、パニックに陥った私の耳にどこか癇の障る聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は、もしかして……。
私は意識を集中させ、その声が紡ぐ会話を聞き取る。
「ねぇ皆ぁ〜? 杞玻、町に行きたぁい」
「天女様の仰せのままに」
「おい仙蔵! お前ばかり天女様に近づきすぎるぞ!」
「気に食わんが文次郎の言う通りだ! 仙蔵!」
「なんだとこのアホ留三郎!!」
「やるか!?」
「やらいでか!?」
「……うへへへ」
「おぉ長次も乱闘に参加するのか? ならば私も」
「ちょっと小平太まで喧嘩したら天女様に被害が出るじゃないか!」
「もぅ皆仲良くしなきゃダメだよぉ〜」
やはりこいつは私を殺した張本人、射杜山杞玻だ。
頬を膨らませ、口ではだめと言ってはいるもののその瞳の奥には自分を取り合う伊作君達に優越感を抱いているのが丸わかりだ。
私は嫌悪感から顔をしかめる。
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長月シキカ(プロフ) - riemoa0323さん» コメントありがとうございます! こちらこそ多数の作品がある中当作品を閲覧くださり感謝申し上げます!! riemoa0323様のお言葉本当に嬉しいです^^最後まで閲覧感謝です♪ (11月14日 22時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
riemoa0323(プロフ) - コメント失礼致します、とっっっても面白かったです!このような作品はあまり見かけないので出会えたことにとても感謝しています、素敵な作品をありがとうございました! (11月14日 0時) (レス) @page22 id: a94f27965a (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 夕さん» コメントありがとうございます! 主人公と組頭が再会するエンドにするか別エンドにするか最後まで迷っていていたので、夕様のお言葉大変嬉しく思います^^最後まで閲覧感謝です♪ (10月10日 14時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
夕 - とても面白かったです!最後に組頭と夢主が再会できた時はとても嬉しかったです! (10月10日 0時) (レス) @page22 id: 50676421a4 (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 確かにこのようなタイプの話はここではあまり見ないですよね...。最初この話が思い浮かんだときは他人に受けるものか心配でしたが小桜様のお言葉に安心しました^^ こちらこそ最後まで閲覧感謝です♪ (2022年9月28日 21時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年8月1日 0時