66話 お別れ ページ16
射杜山を地獄に返してから翌日、私はお殿様の前に正座していた。
私はこの世界でやるべきことをすべて終え、世界が救われた事を伝えるとお殿様は「そうか」と言うだけだった。
「というわけですので、今までお世話になりました」
「……戻るのか」
「はい。私は亡者ですからね、今日中には戻ります」
「そうか……そなたの仕事ぶりは感心しておったが、まぁ仕方があるまい」
「そう思っていただけるだけでも光栄です。お殿様も、どうかお元気で」
「あぁ……」
「……では、失礼致します」
私は最後の挨拶をすませ、お殿様の部屋を後にする。
それから、私は忍者隊の人達にお別れの挨拶を言いまわっていた。
あの時あの場所にいた山本さんや高坂先輩、そして尊奈門先輩は組頭からなにか聞いていたようで、尊奈門先輩は涙を浮かべ、山本さんは優しく頭を撫で、高坂先輩はつっけんどんな態度を取りながらも私に六文銭を渡してくれたりと、皆一様に私との別れを悲しみ送ってくれた。
その事に心からの感謝を込めお礼を言い、私は自分の部屋へと戻る。
その部屋で最後の着替えをすませ、脱ぎ着古した忍び装束を手にある部屋へと向かう。
目的の部屋の前で立ち止り、軽く障子を叩く。
「組頭、いらっしゃいますよね?」
「……入りなよ」
「失礼します」
中からの了承の声に従い、私はゆっくりと障子をスライドさせる。
部屋の中には文机に頬杖をつく組頭の姿があった。
「組頭……お別れを、言いに来ました」
「……そう」
障子を閉め組頭の前に正座をし、そう言うと組頭はいつもより元気のない声でそう返した。
そこから少し間があくが、私は意をけして口を開いた。
「これ、お借りしていた忍び装束です。時間がなくて洗濯できていない事をお許しください」
「……」
「組頭には、本当にお世話になりました。このご恩は決して忘れま」
「A」
私の言葉にかぶせるように、組頭の声が部屋に響く。
彼の言葉の続きを聞くため口を閉じ耳を傾ける。
「……本当に、行ってしまうのかい?」
「はい……今日帰ります」
「……」
こみあげてくる悲しみを抑え込み、私はそうハッキリ伝えた。
すると、今まで座っていた組頭が立ち上がり私の目の前へと出て、おもむろに私を抱きしめる。
自分の体をつつむ優しい温かさに、抑え込んでいた寂しさや悲しさが決壊しそうになるをグッと堪えて、彼に「どうしたんですか」声をかける。
しかし、その声に彼が答える事はない。
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長月シキカ(プロフ) - riemoa0323さん» コメントありがとうございます! こちらこそ多数の作品がある中当作品を閲覧くださり感謝申し上げます!! riemoa0323様のお言葉本当に嬉しいです^^最後まで閲覧感謝です♪ (11月14日 22時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
riemoa0323(プロフ) - コメント失礼致します、とっっっても面白かったです!このような作品はあまり見かけないので出会えたことにとても感謝しています、素敵な作品をありがとうございました! (11月14日 0時) (レス) @page22 id: a94f27965a (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 夕さん» コメントありがとうございます! 主人公と組頭が再会するエンドにするか別エンドにするか最後まで迷っていていたので、夕様のお言葉大変嬉しく思います^^最後まで閲覧感謝です♪ (10月10日 14時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
夕 - とても面白かったです!最後に組頭と夢主が再会できた時はとても嬉しかったです! (10月10日 0時) (レス) @page22 id: 50676421a4 (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 確かにこのようなタイプの話はここではあまり見ないですよね...。最初この話が思い浮かんだときは他人に受けるものか心配でしたが小桜様のお言葉に安心しました^^ こちらこそ最後まで閲覧感謝です♪ (2022年9月28日 21時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年8月1日 0時