52話 苦い粉薬 ページ2
トントン、と酷く小さな物音で目が覚めた私はゆっくりと瞼を持ち上げる。
そして、その物音に「はぃ」と寝ぼけた声で声をかけた。
すると障子が静かにスライドされ、部屋の中に山本さんと湯呑の乗ったお盆を持った高坂先輩が足を踏み入れる。
「すまない、起こしたな」
「いえ……あの何か?」
「あぁ、薬を持ってきたんだ」
そう言う山本さんの言葉で、高坂先輩が持っているお盆の水の意味が分かった。
見たところ粉薬のようだ。
昔から粉薬を飲むのが下手な私だが、ちゃんと飲めるだろうか。
そんな私の心配を知らない山本さん達は私の布団の傍に腰を下ろす。
高坂先輩は持っていたお盆を床に置き、湯呑と小さな袋を私に手渡した。
「ほら」
「ありがとうございます。高坂先輩」
「あぁ……まぁ、さっさと治すことだな」
「善処します」
受け取った湯呑に入った水を口に含み、粉薬が入った袋を開けサラサラと口の中に流し込む。
水のおかげでだいぶ苦みは薄くはなったが、しかしまだまだ苦い。
「……苦いですね」
「忍術学園の保険委員長、善法寺伊作君の特製だからね」
「え、お二人とも、忍術学園まで行ってくださったんですか? なんか、すみません」
「いや、忍術学園まで行ったのは組頭だよ」
「ちょっ、山本さん!」
「それは言わないようにと組頭から言われてたじゃないですか!」と内緒ごとを全て口から吐き出してしまった高坂先輩に山本さんが「お前もな」と言うと、彼はハッとして口を押えた。
そんな事をしても無駄なことはこの場にいる全員が理解している。
「……組頭が?」
「そうだよ。組頭が君の為に自分で伊作君のもとに行き薬を貰いに行ってくれたんだ」
「そうなんですか……治ったらお礼を言わなければ」
「あぁ、そうすれば組頭も喜ぶだろう」
「そうですね」
私なんかの為に、わざわざ動いて下さった組頭の行動に嬉しく思いながら笑みを浮かべる。
勿論、ここまで薬を運んできてくださった山本さんや高坂先輩、それにお粥を作ってくださった尊奈門先輩にも嬉しく思っているし、感謝もしている。
「では、我々はこれで失礼するよ」
「あ、はい。お忙しいのにすみませんでした」
「気にするな。お前はゆっくり風邪を治しなさい。……陣内はあぁ言ったが、あいつもお前の事を心配しているんだぞ」
「や、山本さん!!」
自分の心の内をバラされたからか、高坂先輩の頬が赤く染まっていく。
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長月シキカ(プロフ) - riemoa0323さん» コメントありがとうございます! こちらこそ多数の作品がある中当作品を閲覧くださり感謝申し上げます!! riemoa0323様のお言葉本当に嬉しいです^^最後まで閲覧感謝です♪ (11月14日 22時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
riemoa0323(プロフ) - コメント失礼致します、とっっっても面白かったです!このような作品はあまり見かけないので出会えたことにとても感謝しています、素敵な作品をありがとうございました! (11月14日 0時) (レス) @page22 id: a94f27965a (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 夕さん» コメントありがとうございます! 主人公と組頭が再会するエンドにするか別エンドにするか最後まで迷っていていたので、夕様のお言葉大変嬉しく思います^^最後まで閲覧感謝です♪ (10月10日 14時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
夕 - とても面白かったです!最後に組頭と夢主が再会できた時はとても嬉しかったです! (10月10日 0時) (レス) @page22 id: 50676421a4 (このIDを非表示/違反報告)
長月シキカ(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 確かにこのようなタイプの話はここではあまり見ないですよね...。最初この話が思い浮かんだときは他人に受けるものか心配でしたが小桜様のお言葉に安心しました^^ こちらこそ最後まで閲覧感謝です♪ (2022年9月28日 21時) (レス) id: 594c035cea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年8月1日 0時