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49話 想いは墓場まで ページ49

「それで、雑渡さんはAさんのどこがお気に召したんです?」

「……コロコロと表情が変わるところかな。あの子の表情は見ていて飽きないからね」

「確かに。僕はAさんとは数回しかお会いしてませんけど、その数回でもいろいろな表情をされてましたね」

「あの子が変わらないのは寝不足の時だけだよ」


そう言いながらズズッとぬるくなったお茶を飲む雑渡に伊作は白い布を裂いて包帯にする作業をしつつ彼の話を聞く。


Aは何度言っても過度な仕事をやめない、Aの隈がなかなか消えない、など彼の口からは彼女の話題しか出てこない。
もとより、他人の恋愛話を聞くのに抵抗のない伊作はそんな彼の話を遮ることなく聞き続けた。


雑渡の話がひと段落したところで、伊作は自分の中に浮かんだ疑問をそのまま口にした。


「そこまで想っていらっしゃるのでしたら、想いを告げたらいかがです?」

「……」


今まで、優し気で愛おし気な目で語っていた雑渡の片目が突然悲し気な色を宿した。
伊作には、何故目の前の彼がそんな色を宿すのか理解が出来ず、首を傾げ彼の名前を呼ぶことしか出来ない。


そんな彼の言葉に雑渡はやや間を空けた後、その重い口を開いた。


「この想いを伝える気はないよ」

「え?」

「……こんなおっさんに言われたって、あの子を困らせるだけだよ」


そっと目をそ伏せながら自虐的にそう言う雑渡の姿を見て、伊作は自分が踏み入れてはいけない領域に踏み込んでしまった事を遅れながら理解し、小さく謝罪の言葉を口にした。
その謝罪に雑渡は「気にしてない」と答えるだけだった。


「(あの子の話が本当なら、想いを伝えたって無意味だしね)」


それなら、別れの時まで普段と同じように彼女と過ごせるだけでいい。
だから、この想いは墓場まで持って行こう。


そう心の中で思う雑渡の思いなど伊作は知るよしもなく、いたたまれなくなった伊作は話題を逸らそうと必死に思考を巡らせている。


そうこうしているうちに、医務室の向こう側から雑渡を呼ぶ声が飛んできた。
若い女の声で、その声が自分の部下であり想い人であることを理解した雑渡は腰をあげ障子を開けた。


そこには、全身びしょぬれになったAが申し訳なさそうな顔で立っていた。
雑渡は驚いて一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻したため、Aは彼の表情の変化に気付いていない。

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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時

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