44話 人質になってしまった ページ44
それから。高坂先輩の傍に避難していた萌黄色の服を着た少年と深い青色の服を着た少年が、小太りの男を追いかけたのを見送った私に、高坂先輩が声をかける。
「A。我々は土井先生に助太刀するから、お前は少し向こうに行ってろ」
「あ、分かりました」
戦闘能力などない私は、言われた通りその場から離れようとした瞬間突然現れた何者かに首を腕で掴まれてしまった。
いわば、ドラマでよくある人質状態だ。
「なっ!?」
「Aさん!?」
「お嬢さん!」
「動くな! 動いたら、この娘の命はないぞ」
ほんと、ドラマみたいなこと言うなこの人。
そう思いながらちらりと私を拘束する男を見やると、男らしい太い眉をキリッと吊り上げ尊奈門先輩たちを睨んでいる。
というか、おもに土井半助という学園の先生を睨んでいるな。
土井さんや尊奈門先輩、それに高坂先輩も心配そうにそして悔しそうに表情を歪めている。
そんなに、人質になるのが羨ましいのか?
……なわけないよな。
ちなみに、何故私がこんなに冷静に状況判断が出来るかというと私の首に回されている男の腕に力がほとんど入っていないからだ。
女の私を怖がらせないようにする為か、はたまた女だからと手加減をしているからか、それは分からない。
だが、男に私を殺そうとする気がないのは確かで、武器を押し付けていないのがその証拠。
さて、どうしようか。
勿論、このまま黙って人質でいるつもりはない。
「彼女は関係ないはずだ! はやく離してやれ」
「駄目だ。俺が迷路に向かうまではな」
私を人質にとったまま、男はズリズリと後ずさりする。
何故この男が迷路に行きたがり、土井さんがそれを妨害するのは分からないが、とりあえず今しか逃げるチャンスはないだろう。
「……うぅ……」
「? おい、どうし」
「すいません!」
わざと呻き声を発した私を心配してか、声をかけてくれた男に謝罪の言葉を一つ吐き出した後、男の足の甲をかかとでそれも渾身の力で踏みつけた。
男は、まさか人質が抵抗するとは夢にも思っていなかったようで私の些細な攻撃を避ける事が出来なかった。
辺りに、男の野太い悲鳴が響き渡る。
その隙に私は痛がる男から離れ、尊奈門先輩たちのもとへと駆け寄った。
「先輩!」
「大丈夫か?」
「怪我はないか?」
「高坂先輩……はい、大丈夫です」
「さて、人質もこちらに戻ってきた。まだ戦うか?」
痛む足を押さえながら睨んでくる男に向かって土井さんはそう言った。
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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時