28話 縮む距離 ページ28
「どうして」
「はい?」
「どうして、貴方はそんなに壁をつくるんだ?」
私がそう言うとAさんは隈の酷い目を大きく見開く。
まるでそんな事を言われるとは思ってもみなかったような、そんな表情だった。
私のこの質問に彼女は見開いた目を普通に戻し、口を開いた。
「壁、ですか。それを知って、尊奈門先輩はどうするんですか?」
「どうするって……どうもしない、ただ気になっただけだ」
「では、そのままでいいじゃないですか……どうせ私は数か月後にはいなくなる人間なんですから」
「じゃあ、なんでそんな顔をするんだ?」
「! ……私、そんなに顔に出やすい人間だったかな」
ハァと息を吐きながら、薄く笑う彼女は何処か諦めた様子にも見える。
その表情を保ちながら彼女は続けて口を開いた。
「本当、同じ職場で働いている人は似るもんなんでしょうかね。組頭にも先ほど同じような言葉を言われたばかりだというのに」
「組頭が?」
「えぇ。まぁその話は今は関係がないので置いておきましょう。……さて、私が何故壁を作るかの話でしたね」
「あ、あぁ……」
「……予防線ですよ。私が殺されない為のね」
目を細めながらそう言う彼女に、私は驚きを隠せなかった。
いくらプロ忍である自分でも、ただの女の子を殺すことはしない。
まぁ、敵の場合は除くが。
「私は殺されることに恐怖はないですが、ここで命を落としてしまうと困るんです。だから、壁を作り身を守るんです。変なことをして殺される前に」
「……そうか、だが私は貴方を殺すことは」
「……尊奈門先輩がそう言ってくださっていても、他の方は違う考えを持っていらっしゃる。だからこそ壁を作るんです」
そうハッキリという彼女に、私は圧倒されてしまう。
彼女の言う事はもっともでもし自分がプロ忍じゃなく、彼女と同じ境遇だったらきっと今のような関係は作れなかったはずだ。
「すまない。私、貴方の気持ちを考えてなかった」
「……いえ、尊奈門先輩がそう言ってくださって私、嬉しいんです。この世界で殺さないと断言してくれる人に出会えて少し安心しました」
「だから、ありがとうございます」と笑う彼女は今まで見たこともない柔らかな笑顔だった。
といってもまだ会って一日しかたってない。
けど、でもなんとなく彼女との距離が縮まった気がする。
「Aさん。改めてよろしく」
「えぇ、こちらこそ」
私はそう言って手を差し出し、彼女と固く握手をした。
side尊奈門 終
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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時