26話 料理 ページ26
side尊奈門
いつものように夕飯の支度をしていた私の下に、珍しく組頭が顔を出した。
その後ろには庭で別れたっきりのAさんの姿もあった。
「尊奈門」
「あ、組頭! それにAさんも」
「どうも先程ぶりです」
「尊奈門、Aちゃんと一緒に食事の支度を頼むよ」
「え? ですが」
Aさんは悪い人ではなさそうだけど、素性の分からない人だ。
そんな人をこの場所に置いておくのはいささか危険なのではないか。
そう思っていたのが顔に出ていたのか、組頭は彼女には洗い物を集中させると言い、Aさん自身も頭まで下げて私にお願いするから私は組頭を理由にAさんに許可を出した。
私にAさんを預けた組頭を見送り、私は料理の続きをAさんは水につけて後で洗おうとしていた道具を洗ってもらうよう指示を出す。
しばらく黙って作業をしていたが、私は彼女に対して気になっていたことをついに聞くことにした。
「なぁAさん」
「はい?」
「Aさんって一体何者なんだ?」
「何者……ですか」
私の質問に今まで下を向いていたAさんが困ったような表情を浮かべながら私の方を向いた。
答えに詰まっているのか、彼女はしばらく口を閉ざしたままだった。
その沈黙に絶えられなかった私は、Aさんに再び声をかける。
「志穂さん?」
「あぁ、すみません。えっと私の事ですね……私は、貴方がたの敵ではなくいずれ現れるであろう敵を討ち滅ぼす者、とだけ言っておきますよ」
「……はぁ?」
思わず動かしていた手を止め、訳の分からないことを言った彼女の顔を見る。
冗談かと思ったが、彼女の顔は嘘を言っているには見えないほど真剣な顔だった。
しかし、私の心にはいまだに本当の事と信じれない気持ちも確かにあった。
「言っておきますが、私は嘘はついてませんよ。尊奈門先輩」
「いや、嘘はついてないって、そんな話」
「信じなくても結構ですよ。私がここでお世話になるのは数か月だけ、その期間だけ我慢していただければ、後はいつもの日常が戻ってきますから。もうしばらくご辛抱ください」
そう言って笑う彼女に、私はかける言葉が見つからなかった。
この時の彼女の顔はどこか悲しげに見え、それが助長するのもあり私は黙ることしか出来ない。
この空間に漂う空気を断ち切ったのは、彼女の声だった。
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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時