22話 無意識にこぼれる何か ページ22
「……思ってた以上に悲惨な最後だね」
「自分でも思ってますよ」
「その射杜山って子に恨まれてたの?」
「さぁ。寝不足でふらふらの私を道で見かけたらひっ捕まえて、延々とあの小娘のくだらない自慢話を聞かされてただけですから……恨みがあるかどうかと言われたら、私の方があの小娘を恨んでますよ」
「そうみたいだね」
私は自分の中でふつふつと湧き上がる怒りを必死に抑える為、数回深く呼吸をする。
あんの小娘、今度会ったら絶対にぶん殴ってやる。
そう心に決め、だいぶ落ち着いた私は組頭の方へと視線を向けた。
組頭の片方しかない目からは今、彼が何を考えているのか読み取れない。
「君、射杜山って娘の事恨んでる?」
「そりゃあ恨んでますよ。でもまぁ、それが私の運命だったからしょうがないです」
「しょうがない、ねぇ……君、今自分がどんな顔してるか分かってる?」
「はぁ?」
私は組頭の言っていることが理解できず、首を傾げる。
どんな顔って普通の顔に決まってるじゃん。
なに言ってんだこの人。
そう思っていたことが顔に出ていたのか、組頭は一つ息を吐いて口を開いた。
「Aちゃん、確か鏡返したよね」
「はい」
「その鏡覗いてごらん」
「な、なぜ?」
「いいから」
そう言って引かない組頭に根負けした私は、言われた通り懐から鏡を取り出し覗き込むと目を見開いて驚いた。
な、なんで……私、"泣いてるんだ"?
ぼろぼろ、ぼろぼろとまるで壊れた蛇口の様に流れ出る涙が頬をぬらす。
意思を持たないその涙を止めようとするが、いくら袖で拭っても涙は止まることはない。
それでもなんとか涙を止めようとさらに強い力で拭うが、その腕をガッと何かが掴みその動きを止める。
私の動きを止めたのは、いつの間にか私の傍にいた組頭だった。
「そんなに擦ると目を傷めるよ」
「はな、し、て……」
「駄目。ていうか君、思った以上に馬鹿だね」
「ばっ!?」
組頭の突然の馬鹿発言に思わず組頭の顔を凝視する。
いきなり何言いやがんだ、この人は。
私の心の声など知るわけがない組頭はクスリと笑い声をあげた。
何笑ってやがんだこの野郎。
「涙が引っ込んだようで何よりだよ」
「は? ……そ、そういえば」
組頭の言葉に、私は自分の目元を触り自分の涙が止まっていることを知った。
目の前の男の理不尽な暴言に対しての怒りにより、私の涙腺に設置された蛇口が閉められたんだな。
私は目尻に残った少量の涙を袖で拭きとった。
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長月シキカ(プロフ) - 桜餅の塩漬け葉っぱさん» コメントありがとうございます!主人公や閻魔様のキャラどうするか結構迷ったので笑っていただけて本当に嬉しいです^ ^ 閲覧感謝です! (2018年2月7日 22時) (レス) id: 547ce2e1e2 (このIDを非表示/違反報告)
桜餅の塩漬け葉っぱ(プロフ) - とっても面白いです。閻魔様と主人公のキャラが……www (2018年2月7日 22時) (レス) id: a55b533e90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月21日 0時