嘘と真実5

【平昌前編】5 ページ41

「次はAが俺につけてよ。」

ポケットからもう一つ取り出して、渡す。
それを受け取ってくれて。

「なんか緊張する…(笑)」

今度は俺の左手に。

「…オリンピックのメインリンクで指輪の交換だよ？」

こんな経験なかなかないし(笑)
リンクの真ん中だったらもっとよかったけど。

「ジャージだけどね…はい、出来た！」

二人の左手を握手みたいにつないで、見せ合う。

「いいじゃん！」

「ゴールドの結婚指輪が結弦らしい(笑)」

そこは絶対に譲れないところ。

「A、これから二人で頑張ってこ。絶対幸せにするから。」

さらに左手をぎゅっと握って抱きしめた。
そしたら今度はAが俺の首に右手を回して、頬にキスしてくれた。

「私も。結弦の為に頑張る。」

「さんきゅ。」

さすがに時間がヤバくなってきたな…。
ほんとは指輪をつけたままショートを向かえたい所だけど、けっこう目立つので、後で俺だけ外さないと。

「じゃあ俺行くわ。」

「急いでこけないでよ？！」

小学生かって(笑)

「じゃ、明日会場で。」

「ショート頑張ってね。」

うん。全力でやるから。
左手でグータッチして、来た道を走って戻る。

一階までたどり着くと、製氷作業をしているおじさんと目が合った。

かなり年配のそのおじさんは、俺を見ると親指を立ててにやりとした。
そして、good luck！とこっちに向かって叫んだ。

…あ、もしかして見てた？(笑)





「お、載ってる。」

今朝、昨日の公式練習のニュースをiPhoneで見た。
撮影・木下A。

もう木下じゃねーって(笑)
俺と一部の人間しか知らないけど。

でも…良く撮れてる。
シットスピンの一瞬の横顔。
近かったし、よけいきれいに撮れている気がする。

この写真に見合うだけの内容と、結果を残さないと…。
その分プレッシャーはかかるが、たぶん俺にはプラスに出来る要素だと思う。

iPhoneの画面を消してリンクへ向かう準備をする。

ショートプログラム。
計り知れない緊張。
でも大丈夫。
応援してくれているみんながついている。

「一人じゃない…。」

家族だって増えた。
守る人だって出来た。

やってやる！
ただ一つの自信を胸に会場へ向かった。

会場はどこもかしこもオリンピック一色で。
ソチの時もそうだったけど、真っ白のリンクがすごく眩しくて。
氷じゃないんじゃないかとさえ思う。

ここで、後数十分後にはショートの演技をすることになる。

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