嘘と真実5

【おまけ】4 ページ36

「まだまだ半人前だよ、俺たちは。」

不意にベットに目がいく。
狭さにも…もう慣れちゃったな。

昨日の事を思い出して、ふふ。と気付かれないように笑った。

「俺の代わりに、プーさん可愛がっててよ？」

「ジャージ着せて一緒に寝る(笑)」

サイズが無理だろ、それ(笑)
ベットに座っているプーの頭を撫でていると、そろそろ時間じゃない？と、Aが声をかけた。

そうなんだけど…。

まだここにいたくて、なかなか動けない自分の身体。
正直情けない。

振り返ると、目の高さにアメリカ大会の写真が飾ってあった。
金メダルが二人を繋いでいるみたいに、笑顔で写っている。

…だめだ、俺。
いつまでもうじうじしてちゃ。

干渉に浸ってどうする。
前を見なきゃ！

「よーし、行くか！」

帽子をかぶって鏡を見る。
顔を二回パンパンと叩いてAの方へ向かう。

「じゃ、行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

ハグするみたいに抱きしめて、おでこをくっつけてキスした。
最初は軽く。二度目はゆっくりと。

「風邪ひかないでね。」

「結弦こそ。」

うなずいて。
いつものように、頭をくしゃりと撫でて、玄関へ移動する。

靴をはいて、荷物を持って。
もう抱きしめない。

「A、平昌で会おう。」

「うん、了解。」

一緒にオリンピックの金メダルを日本に持って帰ろう。
そして、そこからがまた俺たちの新しいスタートだよ。

Aが右手を上げた。
俺は思い切りそこへめがけて、手を振り下ろす。

ぱーん！と良い音が響いて。
無言でお互いうなずき合う。

ドアを開けて、雨の降る外へ出た。
迎えの車に乗り込んで、一路仙台空港を目指す。

もう気持ちはスケートに切り替えた。
四年前とは全く違う気持ちで、オリンピックを迎えることになるだろう。

一人のフィギュアスケーターとして。
前回のオリンピック覇者として。
また挑戦者として。

絶対に二人で表彰台の真ん中に立つんだ！

雨はまだ止みそうにない。
見慣れた風景が、一層殺伐として見えた。

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