嘘と真実5

【1月1日】3 ページ26

「あ、はじめまして。羽生結弦です。」

聞かれる前に名乗っておく。

「えー！まぁ…そうなの！あ、今おせち料理用意するから食べてね。」

「はい、ありがとうございます。」

一人だけテンションが違うが、あの年代の方ってみんなそうだよな。

「私ちょっとお手伝いしてくるよ。」

勝手知ったる場所なのか、Aは向こうへ行ってしまった。
部屋には監督と俺の二人切り。

向かい合っていると、監督がお酒を出してきた。

「飲めるか？」

正直、お酒は苦手だった。
でも今日は、新年のお目出たい雰囲気だからなのか、断るのは違う気がした。

「いただきます。」

差し出されたお酒は日本酒で、浦霞と書いてあるラベルが貼ってあるのが見える。

「相変わらず木下とは上手くいってるか？」

いきなり核心に触れられて笑みがこぼれた。
コップにお酒をつぎあって、まずは一口飲んでみる。
ん、飲みやすい。

「実は…僕たち結婚しました。」

「本当か？！」

両手でコップを包み込むように持って、テーブルに置く。

「はい。今日入籍しました。」

「…スポーツ紙に載ってたかな。」

「あ、まだ内緒なんです。Aがどうしても監督には報告したいって言うんで…。僕もそうしたかったので、今日は来ました。」

「またこんな年寄りに秘密を守れって言うのか。勘弁してくれ(笑)」

苦笑いしている。
けっこう負担だったのかな、悪いことしたかな。

「世間には、オリンピックが終わったら公表しますから。2ヶ月頑張ってくださいね(笑)」

「わかったわかった。しかし…羽生。よく決断してくれたな。おめでとう…いや、ありがとうか。」

監督の目尻の皺が一層深くなる。

「僕はずっと前から決めてましたよ。タイミングが今になっただけです。」

また一口飲んで。
恥ずかしいからなのか、酔ったのか、わからないけど顔が熱い。

「そうか…。これで木下にもまた家族ができたか。俺も安心したよ…本当に。」

監督のお酒のペース、早いな…。
嬉しく思ってくれているのだろうか。

「あ、つぎます。」

こうして報告して喜んで貰えるのって、すごく嬉しくて幸せなことなんだな。
なんだかんだ、センパイにも祝ってもらえた。

「お待たせ〜。」

Aが料理を持って入って来た。

「木下！お前、結婚したそうだな。」

おめでとう。と監督が笑っている。

「あ、聞いたんですか？ありがとうございます。実感ないですけどね(笑)」

「監督、もう木下じゃないんで。羽生です、羽生。」

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