嘘と真実5

【12月30日】2 ページ15

最寄り駅まで歩く。
そこから電車に乗って、次の駅で降りた。

仙台で電車に乗ったのちょう久しぶり。
幸い着込んでいるから、誰にも気付かれてないし。

センパイのスタジオは駅から歩いてすぐらしい。
でも念のため、Aとは少し離れて歩く。

今日は12月30日、さすがに店は休みだ。
シャッターを閉めているから、裏から入れと言われている。

前を行くAに無言でついて行くと、アーケードの一角に写真スタジオがあった。
ここがセンパイのスタジオか…。

「普段にすごいじゃん。」

若いのに自分の腕だけで生活しているんだ。
そこらへんは尊敬する。

細い路地から裏に回ると、もう人気はない。

「結弦、こっちだよ。」

Aが手招きしている。
建物に入ると、中は明るくて、久しぶりに見る顔がそこにあった。

センパイ。と、声をかけようと思ったけど、真剣な表情に思わず見入ってしまう。
周りの機材やらも手伝って、センパイを一人のプロのカメラマンとして意識せざるを得ない。

俺たちの気配に気付いたのか、視線がぶつかった。
…睨んでる、確実に睨んでるぞ。
しかも俺だけ。

俺は意を決して、笑顔で声をかけた。

「センパイ！今日はよろしくお願いしますね。」

「…羽生結弦。」

またフルネーム(笑)

「すみません、年末のお休みの時に。」

「…いや、かまわない。」

Aが恐縮しながら頭を下げると、センパイがカメラを置いてこっちへ近づいてきた。
そして、俺の目の前に対峙する。

「結婚ってマジなんだな…。」

「はい。マジです。」

「俺に写真を撮れって？」

「他に頼める人なんていませんよ。」

世界中どこを探しても。

「週刊誌に売って大儲けするかな。」

口が笑っているけど、顔は笑ってない。
不器用だな。

「センパイはそんなことしません。」

「…よく言うな。わかんねーぞ？」

「だってAの一番の理解者でしょ。」

元だけど。

「…理解者なんかクソだ。」

センパイが吐き捨てるように言った。

「今までAを支えてくれたこと。感謝してます。」

俺が何も知らないあの日。
きっとそばにいてくれたのは…センパイだ。

「お前に感謝される筋合いはない。」

だろうな。

「俺が勝手に思ってるだけですから。それならいいですよね。」

「…知らねー。」

ついにセンパイは踵を返して撮影場所へ戻った。
そして、木下！と、Aを呼んだ。

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