嘘と真実5

【12月27日】2 ページ2

目的の階層に着いて、廊下を真っ直ぐ歩く。
途中、いくつか部屋があってドアが開いていたけど、それほど人数はいないんだな。

会長の部屋は、その内の一つの部屋からさらに奥へ入った所にある。

最後に来たのはいつだったかな…。
その時よりも大きな緊張状態だ。

アポイントはとってあるので、迷わずドアまで行く。
心の準備を！と思う間もなく、強化部長が先頭をきって、ノックした。

中からどうぞ。という声が聞こえて、ドアを開ける。

「失礼します。」

強化部長が先に入ってから俺が入った。

「はい、座って。」

以前もそうだったけど、会長としての堂々とした立ち振る舞いと貫禄に、圧されそうになる。

うわ…まじ緊張する。

促されるままソファーに座る。
ふかふかすぎて、心地よいのか何なのか、よくわからない。

「会長、今日は急にお時間をとって頂いてありがとうございます。」

ぺこりと頭を下げる。

「構いません。羽生選手こそ、全日本選手権優勝おめでとう。それに、オリンピック出場も。しっかり練習頑張ってください。」

張りのある声に、たいしたことを言われているわけでもないのに、萎縮してしまう。

あー早く帰りてぇ…。
精神的にけっこうくる。

「ありがとうございます。」

「で、ほんの数日前に会場で会いましたが、なにか言い忘れたことでも？」

向かいのソファーに座りながら、会長が要件を早く言えといわんばかりに話しかけてきた。

ま、負けねーぞ…。

「あー…はい。実はですね。」

「どうぞ。」

俺は意を決して、会長の目をじっと見た。
が、一度目をそらしてぎゅっと目をつむる。

ダメだ…射抜かれてる。
深呼吸しよ。

はぁ、と大きく息を吐いて、今度こそ会長を真っ直ぐ見た。

「実は…今付き合っている彼女と結婚したいと思っているので、報告と、許可を得に来ました。」

「…まぁ。」

目を見開く会長。

「ご存知ですよね？以前報告したカメラマンの…。」

強化部長が会長に、彼女のことを思い出させている。

「あぁ、聞いています。木下さん…だっけかな？でも大輔も真央もまだなのに君が？(笑)」

先輩を差し置いてってこと？
もう〜人それぞれでしょ！
これイヤミだ。

「…確かにそうですけど、どうしてもこのオリンピックまでにちゃんとしたいんです。」

「妊娠させちゃった？」

は…？！

「さ、させてません！」

何を言い出すかと思えば！
俺はめちゃくちゃ首を横に振った。
もう、この手の冗談ほんとやめて。

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