【よぎる笑顔】3 ★ ページ24
「そして最後まで一生懸命やる。これは俺がスケートやってきた中で、一番大事だと思ってることだよ。与えられたチャンスを無駄にしないで。ここまでくるのにどれだけ努力したの。」
「……。」
何か心に響いただろうか。
真奈美さんが何か思い詰めたような表情になった。
スポーツも芸術も、見えない部分はとてもシビアでつらいことを、もちろん真奈美さんも理解しているはずだ。
自分の気持ち一つで、勝者にも敗者にもなるのだから。
「コーチ…一つお願いがあります…。」
しばらくの沈黙のあと、不意に真奈美さんが床を見つめたまま呟いた。
「何、言ってみて。」
少しは前向きになってくれたかな。
伝わってたらコーチとしてすごく嬉しいし、どんな協力も惜しまないので言葉の続きを促す。
しかし、無表情な顔を上げた真奈美さんから発せられたセリフは、想像もしていない内容だった。
「…キスしてください。」
意味を理解する数秒の間に、全身の体温が上昇したのがわかる。
声が喉に張り付いたみたいに乾いて、それでも聞き間違いであって欲しいと願いつつ、言葉を絞り出す。
「…何言って、、、。」
「そしたら頑張れます。」
恥じらうこともなく、ちょっとだけ吹っ切れたような真奈美さんの顔。
でも今はそんなことより、キスという単語しか頭に入ってこない。
「そんなの、そんな…関係ないでしょ。」
変に絡み合った視線をそらす。
俺は今、正論を言っているはずだと必死に言い聞かせながらも、挙動不審になっているかもしれないという不安がよぎり、目をぎゅっと閉じる。
落ち着け…。こんな理不尽なことで振り回されるな。
「どうでしょう。試してみたらわかります。」
「そんなんでアクセル跳べたら苦労しない。」
そうだ。こんな何の根拠もない提案をおいそれとのむわけにはいかない。
少し考えたらわかるだろう!
「誰もテクニックのことを言ってるんじゃありません。メンタルを上げたいからです。」
「……。」
右頬に真奈美さんの視線を痛いほど感じる。
メンタル?そりゃ験担ぎやルーティーンと捉えられなくもないけど…。
「でも…やっぱダメ。」
ポンと椅子の肘当てを叩く。
ここはきっぱり否定しなければ。
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鹿(プロフ) - 王様じゃんぷさん» このまま帰ってしまったらお話が続かないので、どうすれば帰らずにすむのか?!そこの流れが次回のお話です^^しかし雨長いですね。お気を付けください! (2021年8月16日 8時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
王様じゃんぷ(プロフ) - 焼き肉のあとアスカだから帰らないと〜でも帰りたくないな〜(はあと)天気も悪くウィルスも蔓延してますがお体に気を付けて下さい! (2021年8月13日 21時) (レス) id: 8d4c9c3192 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 璃子さん» 本当に好きな推しは、そっと見守るしかできませんよね^^存在自体が尊いので、生きててくれるだけでいいんです。あと、たまに露出してくれると生きてゆけますね!!手紙好評で嬉しい〜〜^^ (2021年8月5日 20時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 美緒さん» 恋する羽生さんはこれからどうなってしまうのか。書いてて楽しいです。現実では絶対にあり得なさそうで(^-^)一応これからターニングポイントでしょうか。色々妄想も膨らみます! (2021年8月5日 20時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 王様じゃんぷさん» 星100億個ありがとうございます!私の見解では、オリジナルフラグをはずし忘れた時点で低評価つけるのは、中2病だと思うんですよね。ある程度の年齢の方は評価をしない傾向にあるような…負けないぞ!(笑) (2021年8月5日 20時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2021年7月7日 17時