輝く水平線5

【不協和音】5　★ ページ21

「いつか足元掬われるぞ。」

小躍りしてる後ろ姿を見つめ、軽くため息をつく。
スケート業界は特別に忖度がまかり通ってる世界だ。俺だけならまだしも、みんなにあんな身勝手な振る舞いをしてたらこの先心配になるわ。

「コーチの才能はあるんだから、礼儀を身につけなきゃダメだろ。」

切実な願望を口にし、気を取り直して再び荷物の整理を始めようとしたら、不意にポケットの携帯が鳴った。
メッセージかな。手持ちぶさたの手をそのまま突っ込み、相手を確認すると…。

「あ。」

表示された名前を見たとたん、さっきのもやもやが一瞬で心の隅に追いやられる。

Aさんだ。
今回はショートから来れたんだ。

A真奈美さん怪我などないですか?とっても心配ですけど、絶対全日本に行けるって信じてます!

「……。」

読んだ瞬間、心が熱くなった。
信じてくれてる人がいる。それだけで、落ち込んでいた気持ちが上を向く。

諦めるのは簡単だ。
でもここで踏ん張って次に繋ぐことができたら、全てが意味のあることだったと言えるだろう。

今の俺たちにとって最も必要なのは、絶対に勝つんだという強い気持ち。
内からも外からも、どこからでも良い“気”を吸収して、自身を奮い立たせなきゃ。

そして、真奈美さんを全日本に導かないといけない。

「ゆづ、私ホテルに戻るけど。」

一人熱く決意していると、所用を終えた奈々美先生がタイミング良く戻って来てくれた。

「あ、俺も戻ります。」

ちょうどいいので便乗させてもらおう。

メッセージの返信はせず、さっと携帯をしまう。
そして荷物を担ぎ、一刻も早く真奈美さんの気持ちを奮い立たせる手助けをするため歩きだす。

たった数行だけど、今一番欲しい言葉をくれたAさんのように。
きっと彼女にも届く言葉があるはずだと信じて、会場を後にした。




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