輝く水平線5

【推し】5　★ ページ16

「あ、そっか！」

自分も楽しみにしていた、１１月１日だ。
正確には２日の午前１時過ぎになるけど。

『試合も焼き肉もアスカも。どれも楽しみで、人生最高の日になりそうです…。』

「あはは！大げさ。でも、前に翌日に有給取ったって言ってたもんね。」

『そうなんです。見終わった後眠れる気がしないので。』

照れながらも、遠足前の子供のように言うAさんがかわいい。
いや、配信後だから逆バージョンか。

「Aさんらしいね。そういうとこ好きだな。」

『…え。』

「自分に素直なところ。欲望のままに生きるのって、羨ましいかな。」

目を細め、頬杖をつく。
それを魅力的というにはちょっと違うけど、とにかくAさんは、不自由な中でも懸命に自由に生きてて、すごいなって思う部分が多い。

『そ、そそそうですか？？！』

「オタクって聞こえは悪いかもしれないけど、実際感心する部分もあるよね。話してて楽しいし。」

『……。』

「俺、けっこう若いうちからイメージついちゃってるから、どれが本当の自分かわからなくなる時があるんよ。実際家ではだらだらしてるし。口悪いから姉ちゃんとは未だに言い合いするし。」

「でもさ、いつまでも子供でいられないんだよね。保守じゃなくて…いつかは変えなきゃいけないのかなって、Aさんと話してると色々考えちゃうわ。」

いつまでも、羽生家の家族４人で生きていくわけにもいかない。
いつかは一人立ちして、自分の道を進まなきゃいけない日が来るのだ。

『羽生さんでも悩んだりするんですね…。』

「いっつも悩んでるよ。たくさん。強い羽生結弦はスケートの中にしかいません。」

弱い部分は、本当に心を許した人にしか見せない。
不器用かもしれないけど、それが俺の生き方だ。

『羽生さん…。』

「ごめんね、変な話ししたわ。」

だから、ほんの少し先の未来でさえ想像できない。

『いいえ。ファンは、どんな羽生さんも大好きだから。いつも強がらなくていいんですよ。』

「うん、ありがと。」

『こちらこそ。色々相談にのってくれてありがとうございます。』

そんな中でも、ありがとうと言葉を交わすだけで暖かくなる心。
Aさんとは、一緒に話してるだけで自然体でいられる。

このままでいいんだ。
お互い、これが一番心地良い関係なのだと言い聞かせつつ、通話を切る。

その時、ふと時間を確認すると、すでにお昼を過ぎていた。






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