輝く水平線

【仙台】9　★ ページ45

「コーチ。」

上目遣いで俺を見つめる真奈美さんを、なんとか視界に入れないように視線をそらすのだが、その方向にAさんがいてはっとなる。

「羽生さん、可愛い生徒さんからのお願いです。快く教えましょ。」

「……。」

二人してそんな目で見るのはやめてくれ！と頭を抱える俺。
つかこれ以上話を長引かせたくない。Aさんを早くここから連れ出さないと！

「それに関してはまた後日。Aさん、行きましょう。」

もう戦線離脱だ。俺はAさんの手を引き、再び出口へと一歩踏み出す。
すると前のめりになったAさんが耐えるようにその場に踏ん張り、俺の動きを妨害した。

「あ、待って羽生さん。どうしてそこまでナーバスになるんですか？ひょっとして昔嫌なことがあったとか…。」

あくまでも理由を知りたいようだけど、これには少し腹が立ったのでつい本音が出てしまう。

「そんなんじゃないです。携帯は余計な雑音が多いから嫌なだけです。」

「そーなんですね。じゃあ最初から言えばいいのに。真奈美さん、そういうことらしいですよ。すっぱり諦めましょ。」

すると突然、今度は俺の味方になった。
急展開すぎてほっとするより間抜けな顔になる俺。

「…わかりました。でも私の気持ちは変わらないので。」

「え？気持ち？？」

あ、まずい。この捨て台詞はAさんに何か感づかれたかも知れない。
弁解した方がいいだろうか。でも俺とAさんの関係も特別なものじゃないし、わざわざ説明するのもおかしな話だ。

「失礼します。」

悩んでいるうちに真奈美さんが帰り支度を初め、リンクから出てゆく。
とりあえず一難去った…かな。

「羽生さんは生徒さんにも連絡先を教えないんですね。」

「変？」

「いいえ。そういうピシッと一本筋が通ったところもいいなぁって思っただけです。」

「……。」

そうなのか。付き合いが悪いって言われるかと思ったけど、意外な反応が返ってきて若干戸惑う。

それより真奈美さんのアクセル成功を報告したいので、Aさんにはロビーで待っててもらうよう伝え、走って事務所へ向かう。

途中、子供たちから冷やかしの声が聞こえたけど、全部無視してやった。




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