輝く水平線

【仙台】8　★ ページ44

「真奈美さんのアクセルに感動しただけだから。」

きっと今、アスカの同じシーンが頭の中で再生されていることだろう。

「そうですか。」

「俺みんなに知らせてくるわ。」

とにかく。このリンクからトリプルアクセルを跳ぶ選手が出たんだ。早く他の先生に伝えなきゃ。

「待ってください！」

「え、なに？」

さっきから何回呼び止められているんだろうと思いつつ、走ろうとした動きを止める。

「アクセルが跳べたら、連絡先を教えて貰う約束です。」

「約束？いや、そんなちゃんとした話になってないよ。」

忘れてなかった…。でもこれは真奈美さんが勝手に決めただけで、教えるとはひとことも言ってない。
一方的なお願いは聞いてあげられないのは、社会の常識だ。

「そんな…私のモチベーションだったのに…。」

あからさまに落ち込まれて心が痛む。
俺が悪いのか…いや、こんなんで情に流されちゃいけない。連絡先を教えてしまったら、今うまくいってることが悪い方向へ行く可能性だってある。

「じゃあ、試合に勝ったらいいですか？優勝すれば教えてくれますか？」

「そこまでこだわる必要性ある？練習だって今のままでうまくいってんじゃん。」

それでも食い下がるので、あくまでも現状維持をお願いする。
急用で来れない時などはリンクに連絡くれればいい。

「そんな…。」

「だから、このまま頑張ろ。真奈美さんならきっと表彰台に乗れる選手になれるから。」

よっしゃ、うまくまとまった！自画自賛していると、横から俺の努力を無に返す台詞が飛んできた。

「羽生さん、連絡先は交換しなきゃ！」

「え。」

「生徒とコーチは信頼関係が大事なんです！普段何気ない悩みでも、ちゃんと相談しなきゃダメ！」

「……。」

「そうした心がけが、オリンピックに向けて土台になってくるんです。」

そう力強く言い切るのは、もちろんAさんだ。
つかそれ絶対アスカとコーチのくだりを現実に投影してるだろ。

「Aさんは関係ないでしょ。」

「いいえ。羽生さんをサポートする側としては、コーチとしてもオリンピックを目指して欲しいです！」

…頭痛い。次のオリンピックに行ける選手はもう決まってんだぞ。
これからまた四年後なんて、女子じゃ年齢的に厳しい。

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