輝く水平線

【仙台】4　☆ ページ40

「もう一回！」

「…はい！」

今度は女の子の声がした。きっと生徒さんだろう。
びっくりしたぁ。こんなに怖い先生、私なら泣いちゃう。

練習が終わるまで視界に入らない位置でこっそり見学しようと、近くの椅子に腰かける。
そして、羽生さんを探すためにリンクをよーく見ると…。

「ん？？？」

おかしいな。女の子以外、先生らしき人は一人しかいない。

どこかで休憩してるのかしら、羽生さん。
でもよく見ると、怒ってる先生はうちの航空会社のロゴが入った白いジャージを着ている。ということは…。

「なんでここで手の振り忘れんの！それくらい頭に入れといて！」

「……。」

ギャー！！まさかあれ羽生さんなの…。
手厳しい言葉を連発し熱心に指導する姿は、とてもお漬け物に苦戦してた人には見えない。

「そう！そこでターンして。よっしゃ出来た偉い。」

しかも今の今までスパルタだったのに、今度はあんな可愛い声で褒めて…まるでアメとムチじゃない！

振り幅すごー。羽生結弦すごー！
あんな風にツンデレ指導されたらもう頑張るしかないわ！

「…はっくしょーい！」

しかしここで私としたことが、あまりの寒さに思い切りくしゃみをしてしまうという失態をおかしてしまった。

意外と響くんだなぁ、リンクって。恥ずかし…などと悠長に構えている場合ではない。
今ので羽生さんに気付かれたかも…。とりあえず両手で顔を隠そう。そうしよう。

「Aさん？」

「ふへ？」

「やっぱりAさんだ。」

でもそんなへっぽこな作戦が通用するわけもなく、名前を呼ばれて思わず顔をあげたら、いつの間にか私の目の前にすました顔の羽生さんが。

さっきとは違い、小首をかしげて可愛く顔を覗き込んでくる。なにこれ、天使？

「わっ、違うんです違うんです！決してもぐり込んだわけでは…！」

「ここ自由に出入りできるから。秘密組織に来たみたいに言わないでよ。」

両手を振って言い訳する私に、さっきのツンデレ指導の名残など微塵も感じさせない笑顔を向けてくれる。
本当に同一人物かしら…ある意味怖いわ。

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