輝く水平線

【好き嫌い】7　★ ページ20

「羽生さん、これも何かの思し召しです。大丈夫…死にはしません。」

「あたりまえだ。」

お漬け物で命を落とした人なんて聞いたことない。

落ち着け、考えよう。
このお漬け物をスケートに例えるなら、４回転アクセル…いや、ルッツか。
ループほど優しい壁ではないにしろ、ルッツみたく越えられない壁ではないかも。

パプリカは別次元…いわばアクセル？
てことは、漬け物は頑張ったらまだいけるかも…。

なんとなく箸を手に取ると、Aさんが小さな拍手をした。
そして、頑張って…と小さな声で告げる。

そもそも頑張って漬け物を食べるこのシチュエーションはなんだ？ギャグか。
…だめだ、思考を元に戻すな。全てはファンであるおかみさんの為だと思え。

「……。」

意を決し、震える手で一欠片のたくあんをつまむ。
そして、何度か上げたり下げたりしたあと、思い切って口に入れた。

「やったぁ！」

噛んだ瞬間、突如として口に広がるあの風味に一旦箸を置き、肘をついて頭を抱える。
あ…あぁ〜、味はまだいいけど独特の歯触りと食感が〜！

「と、とても…つらい！」

「羽生さん、お茶です！これで飲み込んで！」

空中をさ迷う手で、差し出される湯呑みを奪うようにつかみ、漬け物ごとごくりと流し込む。
幸い熱くなかったのでほっとしたのも束の間、小鉢にはまだ半分以上漬け物が残っていて愕然とする。

「これ絶対無理でしょ！」

「羽生さんえらいです！じゃあ次は、お刺身にくるむとか、茶碗蒸しに乗せるとかの作戦で！」

「くぅ〜…。」

たった５グラムのお漬け物と格闘する羽生結弦２９才。
こんな目に遭うなんて…。今日は最悪の日だ。






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