赤と黒のLiberations16

【御守り】7　★ ページ29

「すみません、本人は行く気だったんですけど、さすがに僕が引きとめました。」

想像するだけで忙しいのが目に浮かぶので、申し訳なくて自然と頭が下げる。
双子のお世話は俺と天后でできても、どうしてもAの身体が心配だったのだ。

「いいのよ。結弦くんの言うとおり産後は無理しちゃだめだから。アルバイトの子を増やしてなんとか乗り切ったから。」

「そうなんだ。来年は来れるからね。」

Aがきっぱりと言い切った。
やっぱり神社の娘としての責任感があるんだな。

そんな中、お父さんが本気か冗談か分からないことを言った。

「結弦くんにも来て欲しいくらいだよ。」

翼にミルクを飲ませたまま、嫌味な風でもなくおっしゃるので、それも婿としてありかなと素直に頷く俺。

「そうですね。僕で力になれるのなら是非。」

お正月の神社など、年が明けた瞬間から寝る間もないほど働きづめなのだ。
少しでも役に立てるならと、何の気なしに答えたのだが…。

「えっ、結弦くんが？」

お母さんから真面目な顔でガン見される。

「はい。お正月はさすがにお仕事ないので。表には出られないかもしれませんけど、裏方ならなんでもやりますよ、僕。」

こうみえて体力はめっちゃある。

「でもさすがにそれは…。」

すると、お父さんとお母さんが顔を見合わせて困った素振りをみせる。
何かまずかっただろうか。失言だったかなと不安に思っていると、Aが手をぽんと合わせて一言。

「じゃあさ、結弦くんに狩衣着てもらおうよ。」

「着て何するのよ。」

「拝殿で参拝者にお神酒(みき)を注ぐのどう？」

さらにお母さんに向けて、良いアイデアのように人差し指を立てた。
いつか言ってたアルバイト、まさか本気でさせる気か？

「それは…まずいだろ。」

「大丈夫！お神酒は午前中しか振る舞わないし、無くなったら終了だもん。」

難色を示すお父さんに対しても、Aは自信満々だ。
振る舞い酒か…。お酒は苦手だけど、縁起物だしけっこう楽しそうかも。

「確かに結弦くんは公家顔だし、狩衣は似合うだろうなぁ…。」

「そうだよ。烏帽子(えぼし)を深く被ればバレないって。」

そういう問題なのだろうかと一瞬思いはしたものの、経験したことのない事をやってみたい気持ちは大いにあるので、ここは前向きに検討しよう。

【御守り】8　★→←【御守り】6　★

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す