赤と黒のLiberations14

【女難の相後編】8　☆ ページ47

「な、なんですか…これは。氷の上でこんなに速く…。それに今、跳んだ…。」

それに素で驚く天后さん。…かわいい。

「これが結弦くんのお仕事のスケートだよ。」

「仕事？これが？」

特にこの世界選手権は、男子も女子も世界中のトップアスリートが集う頂上決戦。
絶対に見ごたえのある試合のはず。

「今は全国を旅しながら、勝ち負け関係なくその土地のお客さんの前で滑ってるの。」

「巡業ですか？」

「まぁ、そんなとこ。」

お相撲じゃないけど、言いたいことは理解してもらえたようだ。
とにかく今日は試合の雰囲気だけでも感じてくれればなと思う。

「すごい…私が知ってる日本の風景とは明らかに違います。」

「時代も変わったんだよ。」

画面には大きな建物内にひしめく、超満員のお客さんの姿が映っている。
そもそもこんな風景は普通に生活していてもなかなか見れるものではない。
なんだか、オープニングだけで感極まってしまいそうだ。

「ご主人…今と変わらないですね。」

そんな中、天后さんが私が最近気にしていることを呟いた。

「そうなんだよー。結弦くんだけ年取らないの！なんでかな？！」

ソファーの肘掛けを軽く叩く。
私なんて双子たちに栄養を吸い取られて、すっかり髪が傷んでしまったというのに。

「不老不死の神様でも憑いてるのかしら…。」

天后さんが真面目な表情で考え込んでいた。





オープニングが終わり、そのままテレビ放送された男子ショートプログラムを見る私たち。

「わくわくする〜。」

私も見るのは放送当時以来なので細かい結果なんて忘れてしまったけど、本人が見ろと言うのだからショーもフリーもぶっちぎりの１位なんだろう。

「本当にたくさんの人がいますね。」

まず観客席が映り、アナウンサーが出場選手について実況してくれる中、当時は生放送でまどかと二人テレビ観戦したことを思い出す。

「結弦くん、九尾に取り憑かれたせいでケガをして、ずっと試合に出れなくて。この世界選手権が４ヶ月ぶりに出る試合だったんだよ。」

あの頃は本当に痛々しかった。
なんとかコンタクトを取りたくて手紙を出したけど、まさか試合後に本人が神社まで訪ねてくるなんて思いもしなかったな。

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