赤と黒のLiberations14

【女難の相中編】9　★ ページ39

「私…正直な所、筋金入りの結弦ファンなんです。だからどうしても奥さまのことが知りたくて…。テレビで嘘を言えば、羽生さんが困って私に何か言ってくるんじゃないかと思ったんです。」

冬子さんがわりとはっきりとした口調で呟く。
なるほど、そんな魂胆があったのか。

それに対し無言を貫いていると、彼女がさらに言葉を続けた。

「でも、子供たちに言い聞かせながら、私に返してくるとは思いませんでした。」

「……。」

「まだまだ、大人になりきれてないということですね、私も。」

そこまで気付いたのならもう何も言わない。
それに今、冬子さんはアーティストの顔ではなく、普通の女性のようだ。

「僕が言うのも何ですけど、大人と子供の境って、人それぞれ違うと思うんです。」

「？」

「ある日突然大人になる人もいれば、少しずつの人もいる。また、誰かと交わることで一緒に大人になる人もいる。」

二十歳になったら世間的には大人かもしれないけど、精神的に大人になることとは違う。
実際自分は二十歳を過ぎてもわがままで気が強くて。いつも自分を追い詰めていた。

「僕は。ファンの皆さんと共に大人になったと思ってます。」

ファンと共に笑い、泣き、声を上げ、そうやって成長してきたのだと、今強く想う。

「羽生さん…。」

「だから。ファンでいてくださることはとても嬉しいんですけど、道を踏み外さないで。いつまでも、僕にとって大切な存在のままでいてください。」

誇れるファンでいて欲しい。
今までたくさん理不尽なことで悔しい想いをしてきた時も、ファンの存在に助けられてきたのだから。

人は失敗する生き物だ。だけど修正できる能力を持っている。
むやみやたらに怒りをぶつける前に、冷静に話し合うことでまた前に進めばいい。

「…やっぱり羽生結弦は最高ですね。」

「え。」

「益々ファンになりました！」

これは分かってくれたということだろうか。
そう言った冬子さんは、とても晴れやかだった。





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