赤と黒のLiberations14

【こんな時に】3　★ ページ3

「その真面目な横顔、いいねー。」

真剣に頭の中でパズルを組み立ていると、またまた一枚撮られた。
でもこれは真面目な表情などではなく、ある種の怒りだ。

もし本当にAがここに来ているなら、俺に内緒でってことになる。
今とても大事な時なのに、そこそこ寒い会場に何時間も座りっぱなしなんてあり得ない。

今から関係者席に行って確認しようか。
でも妊婦さん相手にガチで怒るのはお門違いだし、本当にAかどうかもまだはっきりとは分からない。

「能登さん、客席寒かったですか？」

「え？いや…半袖でも大丈夫だけど。」

最前列以外はたいしたことないのか。

「席幅とかは？」

「ここはわりと普通だと思うよ。」

うーん…。
自分の目で見たわけじゃないから、何を聞いても確信は持てないな。

「ちょっと会場見てきます。」

俺はたった今通ってきた通路を逆走し、再び仕切られたカーテンへ向かう。

そして休憩が終わるまで後５分というアナウンスが流れる中、スタンバっている後半最初の演者たちをかき分け、まだ明るい会場を小さな隙間からそーっと伺いつつ、じっと目を凝らしそれらしき人を探す。

「えーっと、関係者席はロングサイドだから…。」

さっきはあの辺にまどかちゃんに似た子がいたんだ。
その右側にかばんの人…Aが…。

「あっ。」

しかし場所を特定する前に、むなしくも会場は暗転してしまう。

「……。」

そしてついには後半の開始を告げるアナウンスが流れて…。
結局、事の真意は分からないまま。

「羽生さん、地元テレビ局のインタビューが入ってるのでこっちお願いします！」

「えっ。あ、はい。」

さらにスタッフさんに呼ばれ、慌てて取り繕う。
そうだった。放送用の番宣収録があったんだ。
Aのことは気になるけど、今はお仕事に専念しなきゃ。

一先ずA探しはあきらめて、後ろ髪引かれる思いでこの場を後にした。






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