赤と黒のLiberations14

【こんな時に】1　★ ページ1

★結弦サイド

仙台最終日ということで、バックヤードでもあまり休む暇はなく、自分が行く先々には常にスポーツ紙のカメラマンがスタンバっている。

もちろん連盟から許可された人たちなのだけど、その中に同郷であるフリーカメラマンの能登さんがいる。

会う度にいつも気軽に絡んでくれるので、ついつい気の緩んだ写真ばかり撮られてしまうのだが、今回も会場のあちこちで撮っていたのか早速ここにもあらわれた。

「結弦。」

「いぇーい。」

「もうすぐ父になる男がピースはないだろ。」

「あはは。」

名前を呼ばれ、即座にパシャリと一枚撮られ突っ込まれる。
カメラを向けられるとつい調子にのってしまうのだ。

「仙台も今日で終わりだな。そういえば次の神戸公演から参加するアーティスト、めちゃくちゃ結弦のファンらしいぞ。」

「そうなんスか？」

「なんでも主催者側への売り込みが凄かったらしい。」

歩きながらこうして世間話をするのはいつものこと。

ちなみにゲストアーティストはショーの前半と後半で変わることが多い。
約１ヶ月も拘束されるのだ。スケジュール的な問題なのは分かっているけど、今年の後半のアーティストって確かベテランの女性歌手だったよな。

「能登さん何でも知ってますね。」

さすがに売り込みの経緯までは知らなかった。

「俺たまにスタッフからも、羽生くんとのツーショット撮って下さい！って頼まれるんだよ。」

「そうなんですか？」

「自分で頼んでって断るんだけど。」

「あはは。」

つかそこら辺はAにきつーく言われたからな。
今回のショーから、女性スケーターとのハグは一切やめ、ハイタッチのみにとどめている。
週刊誌対策とはいえ、味気ないっちゃないけど。

「結婚してガードが固くなった？」

「もともと固い方ッス。」

さらに通路を進みながら、自信満々に答える。
俺は自分の生き方に筋を通すタイプだから、越えて欲しくない一線はきっちり引いてきたつもりだ。

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