赤と黒のLiberations11

【夏の再会】7　☆ ページ7

「仕事って何するの？」

「んー迷ってる。色々オファーがきてるけど、どれもこれも魅力的で…。あ、タレントとかはないよ。」

アスリートだから。と、そこはプライドをもっているようだ。

「じゃあコーチは？」

「それもなぁ…。育てるなら責任もってやらなきゃだめだし、根気のいる仕事だよ、コーチは。もしも海外で教えることになったら、移住しなきゃなんねぇかも。」

「えっ！」

移住？！

「日本は環境があんまり良くないから。第一場所がない。今あるリンクはどんどん数が減ってるし、借りるのだってなかなか難しいよ？」

「……。」

「新しくリンクを作るのも大変なんだわ。」

すごく残念そうに言われて、これが羽生くんにとって悩みの種なのが分かる。
競技として存続させながら選手を育てるのって、きっと想像もできないくらい難しいことなんだろう。

「もしも羽生くんが海外に行く日がきたら、私も連れて行ってくれる？」

そんな決意を持っている羽生くんに、さすがに行くなとは言えないので、せめて付いていくことを打診しておく。
せっかく一緒にいられるのに、また離ればなれなんて絶対に嫌だ。

「そりゃ出来れば来て欲しいけど…。海外の生活ってけっこう大変だよ？」

言葉とか。と、なかなか高いハードルを提示されるのだけど、持病のある羽生くんを一人になどさせられない。
妻として、出来ることを頑張らねば！

「大丈夫、なんとかなる。」

「なんだよその根拠のない自信は。そういう所Ｂ型なんだよな。…でも、ありがとな。」

そう言いながら、また頭を撫でてくれて。
気持ちを受け入れてもらえた嬉しさに、安堵のため息がもれる。

「でも、羽生くんにスケート教えてもらえる子ってどんな子だろうね。」

「でも意外と向いてねぇかもな。厳しくて誰もこないかも。」

自虐的に笑う羽生くんに違和感を覚た私は、すぐにその考えを否定する。
彼ほどのレジェンドにコーチになって欲しい人なんて、この世にごまんといるはずだ。

「そんなことないよ。ここで羽生くんのスケートを終わらせて欲しくない。絶対誰かに引き継いで欲しい。」

私みたいな素人が何を言っても説得力がないけど、後継者をちゃんと残して欲しいなと思う。
羽生くんなら、絶対にすごい選手を育てられるはずだから。

でも、少し考えた羽生くんから発せられたのは、意外な言葉だった。

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