赤と黒のLiberations11

【夏の再会】6　☆ ページ6

「でも、もったいないなぁ…。」

「え？何が。」

「こんなにカッコいい彼氏の顔を誰にも見てもらえないなんて、つまんないなって思ったの。」

「ぷはっ！冗談やめろよ。」

「冗談じゃないもん。」

謙遜するだけで嫌味に聞こえるくらい、羽生くんはモデルだってできるほどイケメンだ。

「はいはい。ありがとね。」

優しくぽんぽんと頭を撫でてくれるその腕さえ、私からすれば愛しくて仕方ないのに。

「Aもその浴衣、とっても似合ってる。」

ふと目を細め、何とも言えない眼差しで私を見てくれる。
ずっとお面だったから、こうしてちゃんと見つめられるとなんだか照れちゃうな。

「すごく気に入ってるから、そう言ってもらえると嬉しいよ。」

お母さんが用意してくれたお揃いの桔梗柄の浴衣は、着心地だけでなく肌触りもとてもいい。
これから夫婦になって、ずっと同じ浴衣を着れるんだと思うだけで、自然と身も引き締まる気がする。

「また来年も着て欲しい。」

「来年だけじゃなくて、毎年着れるし、毎年花火大会に来れるよ。」

こうして羽生くんと交わす約束も、もう奇跡でもなんでもなくて、これからはあたりまえに訪れる。
今までずっと離ればなれだったのがもう随分と昔の事のように感じるくらいに、私は今幸せだ。

「そっか…結婚したら毎日一緒だな。」

そしてこれからの希望を見据えながら、羽生くんが私の肩をそっと抱き寄せた。

それに抗うことなく、羽生くんの肩に自分の頭をこてんと乗せ、ちょっと暑い腕の中で色んなことを考える。

「初めてだらけだから…ちょっと不安もあるけどね。」

巫女として生活してきた毎日を、すんなり切り変えることができるかな。

「なんで。」

「羽生くんの生活リズムが全然わからないもん。」

時差のないお付き合いなどしたことがない私たちだ。
きっと想像もできないトラブルが待っているだろう。

「生活リズムか…。まぁ基本的に俺は遅寝遅起きだな。トロントでは毎日１０時間くらい寝てたし。」

「え、それは寝すぎだよ！」

「現役時代の感覚だけどね。今は引退したから…仕事によるかな。」

羽生くんが首をもたげた。
まだまだ日本での生活リズムが定まってなさそうだけど、ギリギリまで寝るタイプかも。

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