赤と黒のLiberations11

【一人】3　☆ ページ44

次の日、クリーニング店に寄ってスーツを引き取り、車の中で着替えた羽生くんを駅のロータリーまで送る。

「また帰る時連絡してね。」

「うん。いつもありがと、A。」

降りる時、毎回子供みたいに頭をぽんと撫でてくれるのだけど、そういう所が振り幅スケーターだなと思いつつ、夫の背中を見送る。

「行っちゃった…。」

そして毎回のことながら、一人残された車内でとてつもない喪失感に襲われて。

なんでかな…。結婚したら、もっと一緒にいられると思っていたのに、これでまた二日間ひとりぼっちだ。

羽生くんはサラリーマンではないので決まったお休みがない。
週末は主に講演とかで埋まってるし、平日だって今日みたいに打ち合わせが多い。
１ヶ月で１０日ほど、顔を見れればいいとこだ。

「これ、結婚した意味あるのかな…。」

それでも現役の頃と比べて密になってはいるけど…。

もう両親もまどかもいない。
ずっとこのままだったらどうしよう…と少し不安になる気持ちを自覚しつつ、ハンドルに突っ伏す。

「…私、気が変になるかもしれない。」

結婚前の不安とはまた違うの後ろ向きな感情に、心がのまれそうだ。

「だめだめ。なんとかしなくちゃ。」

それでも気持ちを奮い立たせ、ここから立ち去るために、ブレーキを解除しギアをドライブに入れる。
せめて結婚前みたいに、羽生くんに迷惑だけはかけないようにしなきゃと思いながら車を走らせるのだけど、すぐに赤信号に引っかかってしまった。

……。
そして駅前の景色を何気なく眺めながら信号待ちをしていると、不意に動物の看板が目についた。

「あ、あそこ…。」

ペットショップだ。
それをぼーっと見ていたら、いつの間に信号が青に変わっていて、後ろからクラクションを鳴らされる。

「あわわ！」

しまった、前を見てなかった。
私は急いで車を発進させ、帰路についた。





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