赤と黒のLiberations11

【氷と雪】8　★ ページ35

「羽生くん、この人…雪女さん。」

「…え。」

「だから、雪女。」

「……はぁ？！」

ゆきおんな？ってことはつまり妖怪…。

「ゆづくん、会いたかった〜！」

軽々とフェンスを飛び越え、女性…いや、雪女が俺にダイブしてくる。
それをまともに受けてしまい、よろけて尻餅をついてしまった。

あぁ…確かに冷たいわ。
お尻だけでなく、触れられた箇所全部。

「羽生くん！」

心配するAを、大丈夫。と制し、雪女にしがみつかれたまま自力で立ち上がる。

この状況を誰か説明してくれないだろうかと淡い期待をしつつも、ここで妖怪に出会うなんて由々しき問題だ。

スケートどころではなくなってしまった。





透き通るような肌に薄手の白いワンピース。
その意外にも現代っぽい格好に、最初この女性が雪女だなんて全くわからなかったけど、言われてみれば確かに彼女が妖怪だと、俺の本能が訴えている。

白狐から解き放たれて、もう妖怪なんてお目にかかることはないと思っていたのに、ここへきてとんだ誤算だ。
しかも話を聞くうちに、彼女は俺の大ファンで、わざわざこのリンクに住み着いたというから驚きだ。

ここは通年使える数少ないリンク。
ずっと一定の温度を保っているから、夏でも問題なく生きてゆけるのは納得だが…。雪でも氷でも、寒かったら何でもいいのか。

「ずっと待ってたのに、ゆづくんたら全然来てくれなくて〜。」

ベンチに座って足を組み、長い髪をいじりながら軽い口調で言うその態度が苦手だなと感じる。
ちなみにソチ前から練習拠点をトロントに移したので、ここにはほとんど来ていない。

「でもたまーに来てくれたかと思ったら、ゆづくんっ全然気付いてくれなくて〜。」

「……。」

ずっと存在をアピールしてたのに。と雪女がうなだれる。
そりゃそうだろう。俺はAみたく妖怪が見える体質じゃない。

「今日やっと会えたっていうのに、奥さんが一緒なんだもん。邪魔だから消してやろうと思ったら、まさかあの安倍晴明だなんて聞いてないしー。」

不意に悪びれる様子もなく怖いことを言った。
消すという言葉か意味することはなんとなく分かるけど、力の差でいうとAよりは下ってことか。

でも晴明ほどではないにしろ、この雪女が強い能力を持っているのは確かなようだ。
…これはあまり怒らせない方がいいかも。

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