【氷と雪】5 ★ ページ32
★羽生サイド
引退してから何かと忙しく、ほとんど氷に乗れてなかったので、車で移動する最中から今日はめちゃくちゃ楽しみにしていた。
はやる気持ちを押さえつつ、ちょう高速でスケート靴の紐を結び、誰もいないリンクサイドを歩くと、真っ白な空間にエッジカバーのゴトゴトという足音が反響する。
ここはかつては毎日のように通い詰めていた、自分にとって特別な場所なのだ。
「ただいま…。」
長い間来れなくてごめんね、という気持ちを込めてはっと息を吐く。
そしてこれからも大切に守っていきかなきゃと心に留めつつ、辺りをぐるっと一望しリンクサイドを進む。
「Aまだかな。」
スケート見たいって言ってたのに、どこ行ったんだろう。
まだロビーだろうか…。こうやって間近で自分のスケートを見せる機会は初めてなので、早く来てほしいのに。
「ま、いっか。」
そのうち来るだろう。
エッジカバーをはずしてフェンスに置いたら、現役の時と同じように、氷に手をつき右足からリンクインする。
そして体重を乗せて軽やかにエッジを滑らせ、トップスピードまで約2秒。
「冷たい風が気持ちいい…。」
久しぶりに感じる爽快感。
試合前ほどではないけど、氷の削れる音が充分気持ちを高ぶらせてくれる。
やっぱり氷の上が自分の居場所なんだなと再確認しながら、一瞬後ろ向きになって跳ぶのはトリプルループ。
カーンという着氷音が鳴り響くと、拍手と共に知ってる声が聞こえた。
「羽生くんすごーい!」
Aだ。
「遅せぇよ。」
見てたのか。
口元がゆるむのを抑えながら、両足でブレーキをかけて止まる。
「展示コーナー見てたんだよ。インタビューとか見てたら遅くなったの。ねぇ、それより今のジャンプ何?4回転?」
「3回転のループ。それくらい見分けて。」
それでもスケーターの妻か、と内心毒づくけど、今日は氷の上にいるだけで機嫌がいいので本人には言わないでおく。
「そうなの?すっごく綺麗だったよ。」
「ループはちょう難しいから。うっかりしてると抜けて派手に転ぶ。」
上手くコントロールしないと、足元からすてーんと転倒するジャンプだ。
あれ痛いんだよな…と、なんとなく仕切り直すために手袋をきゅっと引っ張ると、Aが、あっ!と俺の手元を指差した。
「羽生くんの手袋、あっちに売ってたやつ。」
「よく気付いたな。」
ちなみに手袋は、現役の頃からずっとここのを使ってて、定期的に身内を介して送ってもらっていた。
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鹿(プロフ) - るりさん» そうなんです。くっついてしまうとなかなかハラハラドキドキがなくてお話がまったりしてしまうんです。果たしてどちらの方がいいのか悩むところですが…。^^;桃色は、どうやってそっち方向に繋げるか…難しいですね(笑) (2020年4月26日 9時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
るり(プロフ) - コロナで日常の有り難みを感じてます。元気でいるといいなぁ。何気ない新婚生活いいですね^ ^妄想万歳!桃色の方もまた読みたいです^ ^元気にしてるといいですね、、、!!移行楽しみです。 (2020年4月25日 15時) (レス) id: 6fac0f416c (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - みなみさん» ロス期ですね^^;妄想するしかないので、してますけど、面白く書けてるか心配。。。新しく書くほどネタもないので、どうしようかな〜 (2020年4月22日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
みなみ - こんな時は散髪にも出掛けたくないんじゃないかな?と思うので、久しぶりにお母様が切ったかもと、勝手に思っています。報道ステーションのはだいぶカットされていたから、改めて動画見ました。ZEROでも見られたけど、録画しそびれました。 (2020年4月18日 15時) (レス) id: 42f93678ff (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - みなみさん» いつも、髪は誰が切っているのかなと思ってますが、もうお母さんではなさそうな…。買い物とか大丈夫かなあ〜。心配はつきませんね^^;しかしニュースが羽生さんばかりでもう、スターやなって思いました! (2020年4月18日 9時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2020年3月21日 20時