赤と黒のLiberations11

【夏の再会】4　☆ ページ4

「勿論。でも浴衣は汚さないようにしなきゃ。」

洗えばいいことだけど、染みになったら嫌だ。

「開けた瞬間、噴き出す時あるもんな。」

ふふふ。と、お面の中でこもった笑いがおこる。
昔そんな失敗もあったな〜と懐かしく思う中、ふと前に並んでいる女性から気になるセリフが聞こえてきた。

「私さ、最近ついに推しの幻聴が聞こえるようになったの…。」

「何言ってるの。いい加減元気出しなよ。」

２０代半ばくらいだろうか。浴衣姿の若いお姉さんが会話しているようだけど…。

「世の男性の声が全部ゆづに聞こえるの。」

「もう末期だね。」

“ゆづ”と言った方のお姉さんが、頭を左右に振って耳を押さえている。

「今だって聞こえたし。あーもう耳鼻科に行かなきゃ！」

「やめなよ。お医者さんがいい迷惑だよ。」

……。
この人たちが言ってる推しって、まさか羽生くんのこと？
隣にいる本人と顔を見合わせると、ちょっとお面をずらして、私にくしゃっとした笑顔を見せた。
どうやら喜んでるいるようだ。

「別にゆづの結婚を否定するわけじゃないんだよね。本人が幸せなのがファンにとって一番嬉しいことだし。ただなんて言うか相手が謎過ぎて、どうやってゆづの心を掴んだのか知りたいのよ。」

「テレビで言ってたじゃん。ファンレターって。」

「その内容よ、内容！ファンには平等に接することで有名なあのゆづが自ら連絡をとったんだよ？どんなことが書いてあったかすんごい気になるの！」

「さすがにそれは永遠に知り得ない情報だわね。」

「あーもう、私もゆづみたいな人と結婚したい！」

私たちの事だ…。黙って聞いていると、特に気分を害するような内容でもなくむしろ微笑ましい部類かな。その証拠に、羽生くんが肩を揺らして笑いをこらえている。

「ばかねぇ、羽生結弦と結婚すると絶対苦労するよ。」

ん？そんな中、聞き捨てならない言葉に耳をすます。

「どうして？」

「あんな真面目な人と一緒に暮らすなんて私だったら絶対無理。きっとタンスの中も机の上も、完璧に片付いてそう。」

「そうかなぁ。」

「ちょっとゴミが落ちてるだけで怒りそうだし。」

そうなの？！と羽生くんに視線を向けると、大げさに首を横に振って否定した。
よかった…。

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