赤と黒のLiberations11

【氷と雪】1　★ ページ28

★羽生サイド

社務所で生活するようになって幾日か過ぎたある日。

毎日忙しくしている自分なのだが、考えてみれば仙台でする仕事なんてほとんどなく、ほぼ東京へ行ったり来たりの生活になっている。

それでも今日は久しぶりにスケートしに行きたいなと思い、朝食を食べながらAに打診する。

「ねぇA、今日リンクまで送ってくんない？」

「リンク？」

「結婚したこと、リンクのみんなにも報告したいんだよね。」

これからもずっとお世話になるリンクなのに、引退会見からまだ一度も行けてないのが引っかかっていたのだ。

ごくごく身内の式だったし、結婚したこと自体、ニュースで知ったスタッフもいるかもしれない。

「いいけど、今から？」

「うん。平日の午前中は人いないから。」

もう一般の時間に滑ることは出来なくなってしまったけど、通常営業は午後からなので、それまで二時間くらい空きがあったはず。

「じゃあ羽生くんが滑ってる間、私何してようかな。」

Aが斜め上に視線を向けて、時間潰しの予定を画策しだした。

「買い物でもすれば？久しぶりの泉区だし。」

あまり出歩かない二人だ。少し車で走ればこことは違って大きなショッピングセンターがある。

「うーん、でもせっかく今日は久しぶりに羽生くんが家にいるのに、別行動っていうのも…。むしろスケートが見たいかなぁ。」

「体力落ちてっから今日はそんな滑り込まないよ？」

「それでもいいよ。うん。私、羽生くんのスケート見学する！」

そう言って残りのパンを口に放り込む。

「見るくらいいいけど、寒くても文句言うなよ。」

「言わないよ。」

まだまだ残暑厳しい屋外とは違って、スケートリンクは年中真冬並みの寒さだ。

でもちょっとデートのようでもある。
一応Aの分の上着を余分に持っていこうと思った。






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