赤と黒のLiberations11

【門出】10　☆ ページ24

「何なに、甘えてんの？」

「ん？…まぁそうだね。」

まったく…狐のパーツが消えているとも知らずに呑気な反応だ。
そうしてなるべく親族から離れて、深緑の木々が立ち並ぶ大きな木の木陰へ入った。

「涼しい〜…。」

暑がりな羽生くんが深呼吸したところで、いよいよ本題に入る。

「ねぇ羽生くん、落ち着いて聞いてね。」

隣で私が小声でそう言うと、羽生くんから怒る風でもなく、怪訝な表情で見つめられた。

「まじでお前さっきからどうしたの？話なら後でゆっくり聞くし。」

「…羽生くん。」

「……。」

それでも私が真剣な眼差しを向けたら、察してくれたのか無言になったので、意を決して真実を述べる。

「羽生くん。今、狐の耳もお髭も尻尾も、消えて無くなっちゃったの気付いてる？」

「えっ。」

少し濁ったような声を上げたかと思ったら、意味を理解した羽生くんが目を見開き、咄嗟に頬に手をあてた。
それからくるっと柔らかい身体をひねってお尻を確認し、そして…。

「ひゃーー！！！」

今度は耳のある部分を両手で押さえ、腰を屈めながらひっくり返った声で悲鳴をあげたので、みんなの視線を一斉に浴びる結果になってしまった。
これは思った以上のリアクションだ。

「羽生くん、大丈夫だから！そ、そうだ。蜂は飛んでっちゃったから！」

さすがに目立つので、虫のせいにして場を取り繕う。
すると辺りは、なんだそんなことか。という雰囲気になりほっと胸を撫で下ろす。

「し、尻尾が…耳も…。」

何度も身体を確認する羽生くんがちょっと挙動不審だけど、この喜びは共感に値するので自分的にももらい泣きをしてしまいそうだ。

「よかったね。」

「つかいつから？！」

「結婚式の最中。」

「お前気付いてんだったら早く言えよ。」

「だって羽生くんがあとでって…。」

「あーもぅ、ちょう嬉しいんだけど！」

自分の身体を抱きしめ、なんとも言えない晴れやかな表情を見せる。

羽生くんにも見えてない…ということは、完全に元の姿に戻ったんだ。
今その理由を深く考えることはしないけど、おそらく婚儀を行ったことと関係がありそうな気がする。

御神体の御前で夫婦の契りを交わし、愛を誓いあった私たちだから。狐のパーツが消えたのかな。

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