赤と黒のLiberations9

【それでも好き】1　☆ ページ1

☆主人公サイド

１２月も十日を過ぎた朝…というより、もうそろそろお昼の休憩に入るという頃。不意にポケットに入れていた携帯が鳴った。

いつものように境内を掃除中の私は、暖かい日なたに移動し、ホウキを壁に立て掛けて通話を繋ぐ。

「もしもし。」

『負けた…。』

いきなりそう告げられて。でも声だけですぐに羽生くんだと分かる。

先日トリノで行われたグランプリファイナルでは、羽生くんは惜しくも優勝はならず、二位の銀メダルだったのだ。

満を持して挑んだ頂上決戦。
ＮＨＫ杯から今日までの間一度も連絡がなかったから、相当スケートに集中していたのだろう。

それでも負けてしまった敗北感はいかばかりか。
悔しい気持ちを抱えつつ、今頃トロントのお家に帰宅して一息ついた所かな。

「うん、でも素敵だったよ。」

『負けは負けだし。あーもうなんでだよ！』

相当悔しがっている様子からして、顔を見られたくないのか、今日はテレビ電話じゃない。
こういう所はとても分かりやすい性格だ。さすがＢ型。

「でも最初のジャンプ２つ、すっごく綺麗だったね。」

『ループとルッツだし。いい加減覚えろ。』

「……。」

せっかく褒めてあげたのに、ありがとうの一言もなく鬼軍曹みたいにたたみかけられる。
でも今日は落ち込んでいるのが手に取るように分かるので、そんな嫌味も全部受け止めるつもりだ。

『つかあれからジャンプの種類勉強してる？ルッツは外側にエッジを倒してパーンッて跳ぶジャンプだから。』

「はいはい。」

『適当に返事すんじゃねぇ。いい？Aは羽生結弦の彼女なんだよ？スケート勉強してくんないと話にならんわ。』

「まどかとブルーレイ見て研究してるから。」

まだ最初の一回見ただけだけど。

『ロステレより今回のファイナル見て研究して。ルッツまじですっごい綺麗に跳べたから。』

他のどの選手よりも！と矢継ぎ早に付け足される。

「４回転アクセルも跳んだんでしょ。」

『跳んでねぇよ。』

「え、でもニュースでは跳んだって…。」

試合後、怒濤の勢いで更新されるウェブニュース。今回、かなり羽生くん関連のを読み漁ったので、情報通のつもりだったのに。

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