赤と黒のLiberations8

【今はまだ】5　★ ページ41

★羽生サイド

「あ、そういえば。」

普段着に着替えチェックアウトの準備をする最中、さっきAの鞄の中から携帯を取り出した時に、黄色い熊のぬいぐるみが入っていたことを思い出す。

「何？」

「ちょっと目についたんだけど、プーさん持ってきてたの？」

「あぁこれ？」

Aも同じく荷物をまとめていた所だったので、すぐに現物が目の前に現れた。

「投げなかったんだ。」

「投げなかったっていうか、遠すぎて無理だったの。」

あ、そっか。投げ込みはアリーナ席からだけだ。

「ふーん。でもちゃんとラッピングありがとな。」

「うん。また機会があれば投げてみるね。」

そう言って、ビニールに包まれたぬいぐるみを再び鞄の中へ戻す。
いや、そうじゃなくて。

「ここに本人いるんだから、今渡せばよくね？何も試合で投げんくても、こっちの方が確実に俺の手に渡るっしょ。」

この先日本での試合なんて、全日本しかない。それも投げ込み出来るかどうか微妙だし、第一チケットが取れるかどうか…。

今受けとるのが一番確実だし、ＮＨＫ杯のために用意してくれたものだからという理由付で、右手を差し出して催促する。

「あ、そっか。…でもあのぬいぐるみってどこかに寄付するんでしょ？」

「大体はそうだけど、恋人からのはさすがに持って帰りたい。」

Aが初めて試合を見に来てくれた記念のぬいぐるみだ。
ぜったいに部屋に飾る。つか毎日一緒に寝る。

「じゃあ、今渡すね。」

Aがまるで子供を抱っこするように、優勝おめでとう。と自分に差し出してくれる。

「あんがと。」

それをありがたーく受け取って、早速ビニールから取り出す。
そのはずみに、ふとAの鞄の中を覗くと、大きな薄い雑誌のようなものが入っているのが見えたので、なんとなく引き抜いてみた。

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