赤と黒のLiberations6

【嘘】3　★ ページ3

「いきなりすぎたかな…。」

斜め上を見上げつつ腕を組む。
もしもこれが逆の立場なら、好きな人からの拒絶に気持ちのコントロールができず、スケートに影響が出るかも…。
現に今、俺はAの声が聞きたくてたまらない。

「……。」

携帯を手に取って、いつもメッセージをくれるアプリを起ち上げ、Aの名前を表示させる。

この画面に軽く触れるだけで、日本にいる愛しい人と繋がるんだ…。
そんな簡単なことを、なぜ我慢しなくちゃいけないんだ？

今までなら、試合の前後は周りの情報をシャットアウトして、さらに試合後の内容を自分の中だけで消化する。

良かった所も勿論あるけど、ダメな所ばかり気になって、ああすれば良かった、こうすれば良かったと、いつもそうやって一人で反省会をしながら気持ちを落ち着かせてきた。

納得のできた演技なんて今まで一度しかないし、それでさえ時間が経てば、もっとできたんじゃないかって自問自答してしまう。

まだそうやって内に溜め込むのか…。
次の試合で爆発させればいいって？

「次なんていつか途切れるわ。」

考えてみれば、今季滑るプログラムだって、Aに伝えてない。
聞かれなかったといえばそうだけど、昨季の曲を持ち越すことくらい別に言ったってよかった。

「彼女なんだぜ…。」

いつだって、自分のことを一番知ってて欲しい存在。

共に泣き笑い、喜びを分かち合う。
たとえ納得いかない試合内容だったとしても、あーでもないこーでもないって言い合いながら、一緒に消化したっていいじゃないか。

自分はもう、一人じゃないのに。

「……。」

携帯の画面にある受話器のマークを押して、耳にあてる。
面と向かってだと言えないこともあるから、今日は声だけの通話にして。

「A、出てくれるかな…。」

あれだけ連絡しないと言い切った手前、ひょっとしたら出てくれないかもしれない。

「３０コールくらいまでなら鳴らしてもいいよな。」

俺は荷造りを後回しにして、携帯を片手にベッドに腰を据えた。





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