赤と黒のLiberations6

【嘘】1　★ ページ1

★羽生サイド

自室の鏡の前で自分自身と対峙し、その一層白くなった狐耳をじっと見つめる。

９月に入ってからというもの、白狐化が目に見えて進んでいるような気がしてとても不安なのだ。

「無事にシーズンを迎えられますように…。」

そんな自分の手の中に、Aから最後にもらったお守りがある。

赤と黒の模様が目に鮮やかなこのお守りの中には、九尾の力を弱めるために切ってくれた、Aの髪の毛が入っているのだ。

「もういらないかなって思ったけど…やっぱ落ち着く。」

それを額にあてるだけで、遠い日本にいる恋人の存在を感じられる気がする。

連絡を絶って一週間。
カナダで行われる今季初の試合もいよいよ週末に迫っている。

正直、練習に打ち込んでいる間はスケートで頭の中がいっぱいで、Aのことを考える余裕なんてなかった。

４Ａに衣装にプログラム。Ｂ級の試合とはいえ、注目されるに決まってるから。

さて、そろそろ試合に向けて荷造りをしなきゃ。
いくら国内とはいえ、衣装や靴、着替えなんかも持っていかなきゃいけない。

早速クローゼットからスーツケースを取り出し、細々したものを順序よく詰め込んでゆく。

「えーっと、あ、手荷物用にあのかばん使おう。」

アイスショーでファンの方にもらったやつ。
ちょうどいい大きさだしデザインもカッコよかったから、今季に使おうと思ってトロントへ持ってきていたのだ。

いつもたくさんのプレゼントを頂いて選別が大変だけど、使えるものは使わないと。

「つかAのやつ、俺が毎回お土産持ってってやっても、なんもくれなかったな。」

ふとかばんを手にしつつ、ファンと恋人を比べる。

彼氏が遠く離れた地で頑張ってるのに、付き合う前に貰ったお守り以外、何もくれたことがない。

あれだって必要にかられた物なのでプレゼントじゃないし。
別にあげたからくれというんじゃないけど、せめて、“私の代わりにして”的なアイテムを渡してくれてもいいんじゃね？と思うわけで…。

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