赤と黒のLiberations6

【嘘】8　★ ページ8

『もういいですか。これからデートなんです。田中さんは今海外にいるんですよね。Aとデートは無理ですよね。』

「……。」

『失礼します。』

コウくんに現実を突きつけられて、言い返せない間に通話がプツッと切れた。

「なんなの…。」

その瞬間、足の力が抜けたようにベッドへ崩れ落ちる。
その弾みに、手からこぼれた落ちた携帯が、ほわんとスプリングで跳ねて床にすとんと落ちた。

それを拾おうともせずにうなだれる俺は今、正気を保てているだろうか。
頭の中で憎悪が渦巻いてて、どうにかなってしまいそうだ。

Aが俺と別れたいなんて…そんなのコウくんの戯言に決まってる。
適当なこと言って、俺とAをダメにさせようって魂胆なのは見え見えなんだよ！

ぐっと拳をにぎり、額をくっつけて必死に頭からさっきのやり取りをかき消す。

「……。」

でも、隣で寝てるってなんだ。
そんなシチュエーション、ほぼ一つしかないじゃねぇか。

そもそもAの携帯なのに、なんで本人が出ない。
盗んだのか？いや、側にいなきゃ田中よしおが彼氏だということはわかんねぇ。

何かの弾みにその話になったとしても、あいつは俺が今現在、海外にいることも知ってた。

「A…本当にコウくんと一線を越えたのかよ…。」

それで泣き疲れて寝てんの？俺とだってそんなことしてないのに…。

構ってやらなかったから魔が差したのだろうか。
でももしそれが本当だとしたら…。

「昼間っからバカじゃね？」

誰に言うでもなく、吐き捨てる。

やめた。もう何も考えたくない。
こんな答えがでないことを考えても、来週の試合に影響が出るだけだ。

Aは俺じゃなくてコウくんを選んだ。
遠い国にいる俺より、近くにいる幼なじみを…。もうそれでいい。

「もう二度と連絡してやんねぇ。俺はスケートに生きる！」

恋人なんていらねぇし！

そのまま荷造りもせずベッドもぐり込んで。
そうして俺は言ってることとは裏腹に、一時間くらいずっと泣き続けていた。





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