赤と黒のLiberations6

【迷いの中で】5　☆ ページ49

「形だけだから。くれぐれも叔父さんの家に迷惑かけないでよね。」

「わかってるって。でもお姉ちゃんの彼氏、このこと知ってるの？」

「……。」

子供のくせになかなか鋭い所を突く。

黙ってお見合いする方が良かったのかは謎だけど、私が正直に話しても羽生くんは怒らなかった。
それどころか冷静に分析しながらも、深入りせずに私の言うことを聞いてれた。

だから、自分に対して失礼だと言われた時は全くその通りだと思ったし、本当に申し訳ない気持ちになった。

「まどかが彼氏の立場なら、やめて欲しいけどなぁー。」

「仕方ないでしょ。全部あんたのせいだから。」

「痛っ。」

もう一つつまみ食いの手が伸びてきたので、その手を軽く叩く。

「だーめ。」

「けちー。」

全く、油断も隙もない。

…そう言えば羽生くん、私にお見合いをやめろとは言わなかったな。

そりゃそうか。そんなこと言ったら、自然と矛先が羽生くんへ向いて責任転嫁しちゃいそうになるし、その気もないのに私と結婚しなきゃいけないような流れになる可能性が高くなる。
そうなったら、長男である羽生くんが困るだろう。

「でも運命かもねー。婿養子に来てくれるんなら、お見合いに賭けたほうがいいんじゃない？」

「やめてよ。今回はもう断るって決めてるし。」

「え、もったいない！婿養子だよ？」

「独身の方がまし。」

何も今その人と結婚しなければならない訳じゃない。
神主の資格だって持ってるし、いざとなったら私が一人でこの神社を切り盛りしてやる。

「相手が羽生くんくらいイケメンだったらどうする？」

「あり得ない。」

唐突にまどかがたらればを言い出した。
羽生結弦本人と付き合ってるのに、それ以上の人なんて存在しない。

「ふーん。ま、選り好みしすぎて婚期を逃さないようにね。」

「よけいなお世話よ。」

言いたいことを全部言ったのか、ようやくキッチンから出て行く妹。
小学生のくせに本当に生意気だ。

とにかく。今の私の心の拠り所は、こうして羽生くんの好きな唐揚げを作ること。
それをいつか本人に食べてもらうことを励みに、気の進まないお見合いに挑むのだ。

避けられない運命の中にも、一通のメッセージでそんな希望を見つけさせてくれた羽生くん。
そんな彼をますます好きにならないはずがなかった。






.

【迷いの中で】6　★→←【迷いの中で】4　☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す