赤と黒のLiberations6

【優しさ】9　☆ ページ34

「えっ、あぁーあれ？」

『けっこう経つから、さすがに何か分かったでしょ。』

「えーっとぉ…。」

どうしよう。
ここで私が勝手に仮説をたてている、“羽生くんが安倍晴明の産みの親である白狐説”を言ってしまっていいのだろうか。

でもなぁ…。深く突っ込まれると証拠なんて何もないから怒られそうな気もする。

『その顔、なんか知ってそうだな。』

悩んでいると、羽生くんの目付きが何かを察知したように鋭くなった。

「別に聞いても何も進展しないと思うよ？」

『そんなのわかんねぇじゃん。』

さらに好奇心も加わって。
こうなるといくらとぼけても無駄なのは、経験上分かっている。

羽生くんが、言ってみ？と、さっきより優しく促してくれるので、それにつられてなんとなく経緯を話す私。

「実は…羽生くんと私、元親子かもしれない。」

『はぁ？』

それだけだと分かりにくいだろうから、逸話のままを伝える。
要するに、白狐が人に化けて人間と恋に落ち、私の前世である安倍晴明が生まれたのだ。

「まぁただの伝説だよ。」

白狐は妖怪ではない。
どちらかというと、人々に幸福をもたらす善い狐だし神聖な部類なのだが…。

『俺が白狐…。』

「気を悪くしないでね？」

絶対に信じてもらえないと思っていたのに、羽生くんが唇に指をあてながら真剣に考え出した。
その意外な反応に、心の中で彼への信頼度が増す。

『晴明の母親か…。』

「もしそれが本当なら、後世で恋人になってるって面白いよね。」

しかも同じ年に同じ市内で生まれてるし。

『前世で血が繋がってたのなら…今の関係もあながち偶然じゃないのかも…。』

今度は斜め上を見ながら思案している。
二人が出会ったのは、運命だとでも云いたいのだろうか。

白狐は、時空を操る神の使い…なんて言われることもあるから、時代を越えて巡り会った的な考え方もできるかも。

【優しさ】10　☆→←【優しさ】8　☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す