赤と黒のLiberations6

【オール】1　★ ページ20

★羽生サイド

家に帰って一息つく間もなく自室のベッドに腰かける。
そして、待ち受けを眺めてから清水の舞台から飛び降りる気持ちで、通話アプリを起ち上げてAの名前をタッチしたのだが…。

「出ねぇな…。」

４回、５回と、鳴り響く呼び出し音。
何回まで待つか決めてなかったなと思いつつ、１０回目のコールが終わった頃、プツッとした音と共に、少し息づかいの荒い声が聞こえてきた。

『も、もしもし？！』

間違いない、Aだ。
今回はちゃんと本人が出てくれた。
やばい、それだけでもう泣きそうだ。

「あ、俺…。」

『どうしたの、何かあったの…？！』

続けて焦ったような声がして。
でもどことなく思ってたのと反応が違うくて、少し首をかしげる。
てっきり、何で電話してきたの。とか言われるかと思ってたのに…。

「いや、あの…うん。なんだっけ。」

『え…本当に羽生くん…？』

想像とのギャップに言葉がうまく繋がらなくなって、Aに疑われてしまった。

「あ、そうそう！試合が終わったから、一度連絡しようと思って…。」

尻すぼみになりながらも、それっぽい理由でごまかすのだけど、本題はそこじゃなく関係の修復だ。でもいきなりは言いにくいので、無難な話題から先に告げる。

『…あ、そうなんだ。』

「色々あったけど、優勝したよ？俺。」

色々についてはあえて触れないが、嬉しい報告から入って少しでもAの気持ちを柔軟にしたかったのだ。

『おめでとう。まさかこんなに早く連絡くれるって思ってなかったから…。』

ありがとう。と言われ、ますますこの会話に違和感を感じながらも、立ち止まらずに心を強く持ってこのまま突き進む。

「今家に着いて、金メダル飾ったとこ。あ、これメープルのにおいがするんだよ。」

こんなどうでもよさそうな情報を挟んで、場を和ませることに必死な俺だけど、もうカッコ悪いとか言ってられないのだ。

『さすがカナダだね。』

「うん。えっと…それでね、A。コウくんのことなんだけど…。」

そして携帯を持ち変えて、いよいよ本題へ。
口からなんか出てきそうなくらい緊張しているけど、まずは自分の素直な気持ちを伝えなきゃ。

ハビだって、プライドを捨てて彼女の胸に飛び込め、みたいなことを言ってたし、ここは恋愛経験豊富な友人の言葉を信じるしかない。

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