赤と黒のLiberations5

【再会】10　★ ページ18

『羽生くん…怒ってる、よね。』

「……。」

『羽生くん…？』

身体がふわふわして言葉が出てこない中、おまけに頭に血が昇っていくのが分かる。
それでも何かをしぼりだすように、ぐーっと身体に力を入れる。

きっと今、俺の狐耳はぴんぴんになっているだろう。
尻尾だって、つんつんに逆立ってるに違いない。

「何で…。」

『え。』

「何でそんなこと…つか、彼氏いるって言わなかったの？俺言ったよな。彼氏いるって言えって！」

声が震えないよう、自然と大きくなる自分の声。
抑えようと思っても心が全く言うことをきかない。

『言ったよ。言ったけど…信じてもらえなくて。』

「くっそ、あのやろー！」

どんっ！と机を拳で叩いたはずみで携帯が揺れる。

『羽生くん…あの、ごめんなさい。』

「いや、Aは悪くない。」

この怒りはAではなく、コウくんに対してのものだから。

『ううん、私も悪いの。ごめん…。』

俺に対して何度も謝るA。でもむしろこの場合、謝らなきゃなんねぇのは自分の方だ。

俺が側にいたら…堂々と付き合ってるって言える立場なら、こんなことにはならなかったのだから。

『私、どうしても羽生くんに黙ったままなんてできなくて…。』

「…うん。」

『隠し事なんて、したくなかったの…。』

Aの選択はおそらく正しい。
俺だって、傷付いていることを知らないままでいるのは、すごくつらいから。

「A…。」

こんな時、なぜ自分は羽生結弦なんだろうって思う。
怒り悲しみ、それらをどこへもぶつけられない自分って、一体何なんだ。

自分なりに落ち込んでいると、ふとAが、少し自慢気に手のひらを画面越しに広げて見せた。

『でもね、思いっきりぶん殴ってやったの。』

「え…。」

ぶん殴った…。

『こんな風に、ばちーん！って。』

そして携帯の荒い画質では捕らえきれないくらい高速の素振りをしたので、まさか手加減なしに殴ったのか…と一瞬で冷静になる。

「……。」

『それくらい、やり返してもいいよね。』

「…そ、そうだな。」

なんだろう。
今Aの本性を垣間見たような…。

『羽生くん？』

俺が固まっていると、おーい。と手を振られて現実に戻る。

「いや、うん。Aって、力持ちなのかなーって思って…。」

『普通だよ。どうしたの？急に。』

「べ、別に。」

ひょっとして、すごく強い女の子だったりして…。

やばい、俺尻にしかれるかもしれない…！
違う意味で怖くなった。




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