赤と黒のLiberations5

【再会】5　★ ページ13

★羽生サイド

練習が終わって、車で帰路につく。
日本ではそろそろチャリティーのアイスショーの情報が解禁される頃だ。

今季は他にもたくさん仕事をしてきたので、シーズンが始まるまでの間、ファンの方々に喜んでもらえたらいいなと思う。

そんな中、日本のニュースサイトを見ていたら、不愉快な部類の記事が飛び込んできた。

「仙台のガイドブック転売続出…。まじか。」

前からこういう事があるのは認識してたけど、まさか今回もとは…。

「つか売る方も売る方だけど買う方も微妙だよな。」

特設サイトでウェブ公開されるというのに、お金だして買うやつの気が知れない。
仙台に来てこそのガイドブックなのに、他人から手に入れてどーすんだよ。

「ま、他にも色々問題はあるか。」

配布方法に関しては俺の管轄外だけど、状況を含めて今後色々検討しなきゃなんないな。

でも全ては東北の、故郷のためなのだ。
東北にうるおって欲しいのに、転売屋をうるおしてどうすんだっつーの。

ため息と共に携帯のニュースサイトを閉じて、今度はアルバムのフォルダを選択する。
そして、トロントへ来てから何度も眺めている、自分の彼女の写真をタッチした。

「……。」

A、今頃何してるかな。
もう紫陽花の季節は終わってしまったけど、梅雨も明け、日本の暑い夏に体調を崩してないかな。

「会いてぇな…。」

あのちょっとボケた雰囲気がもう恋しい。
夜、電話で話しをするだけじゃなくて、触り心地にも香りにも。何もかもに飢えてる感じだ。
側にいられないのが、こんなにもつらいとは…。

分かっていたこととはいえ、日本に残してきた恋人への想いは募るばかりだ。

「…つか、コウくんに言い寄られたりしてねぇよな。」

ふと、あの空気の読めない幼なじみを思い出す。

偶然遭遇したプロポーズ大作戦だってかなり独りよがりなものだったし、完全にAの意思を無視していたので、ありゃ四年なんてとても我慢できないんじゃないか。

彼氏いるって言えとは言ったものの、それで引き下がるような男じゃないかも…。

「心配だわ…。」

携帯をカバンに突っ込む。
そして何気なく窓の外を見ると若いカップルが手を繋いで歩いていた。

「……。」

いつか。自分たちもあんな風に町を歩ける日が来るだろうか。

コンビニ行ったり買い物行ったり。普通の恋人同士がするようなことが出来るかな。

「日本じゃな…。」

少し複雑な気持ちになった。




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