赤と黒のLiberations5

【幕開け】5　★ ページ43

『ほんとに…？』

「勝手なこと言ってるのは分かってる。でも今日から、生活の全部をスケートにしないとダメだから。」

他人の恋愛ってよく知らないけど、不器用な自分に出来ることは、距離をとることだけ。
でも答えのないやり取りなだけに、気が重いのは否めない。

「俺もつらいけど…わかって。」

『……。』

二人の間に沈黙が続く。
Aに選択肢なんてないのに、納得させるために、俺はそのまま無言を貫く。

『本当にそれで、羽生くんが勝てるなら…。』

そんな中、戸惑いつつも、Aが肯定の意味合いの返事をくれた。

「うん。勝つよ。」

Aのために…って大それたセリフは言えないけど、全力で頑張りたい。

『分かった…。』

「…ありがとな。今季も全部のタイトル獲るつもりでいきたいから、俺。」

こんなやり方しかできなくて、自分が情けないけど、これも羽生結弦の一部分だと思ってくれたら…。

『……。』

「しんみりしちゃった？あ、後で自撮りした写真送ろっか。」

落ち込むAに、冗談ぽく提案したのだが…。

『いい…。』

「え。」

『前のやつ、まどかに見られて…。』

「あ、そっか…。」

神社で撮ったやつはホーム画面に設定してたから、まどかちゃんが携帯をいじって画像を送信してきた時点で、見られてしまったということか。

あんまり背景を写さずにアップにしといてよかったと思う反面、拒否られてちょっとへこむ。

『あの、羽生くん…。』

「ん？」

うつむきがちなA。
泣いてるのかな…。でも泣かせている原因は自分だから、なんとも言えないわ。

『練習、頑張ってね…。』

「頑張る。A、長い期間だけど、我慢できるよね。」

『うん…。』

「好きだよ。」

『うん、私も…。』

好き。と続けて言ってくれて少し安心しつつも、こんな言葉もしばらく聞けないんだなと思いながら、胸が痛くなった。





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