赤と黒のLiberations4

【ＰＡ】1　★ ページ26

★羽生サイド

六月も終わりに差し掛かり、トロントへ行く日が近づいてきた。

ショーが終わって約２週間、俺たちはこの神社で、たくさん…とは言い難い時間を過ごす中で、この社務所でデートするのが恒例になっていた。

「Aさん、これ美味しい。」

忙しい合間をぬって訪れた平日の午後、小腹がすいたので何か作って。とお願いしたら、この社務所のキッチンでおにぎりを作ってくれた俺の彼女のAさん。
それを食べながら、今日も幸せなひとときを味わう。

「ありがと。そんなので良かったらまた作るよ。」

その笑顔に癒されながら、また一口。
至福だ…。

「じゃあ今度は唐揚げとか食べたい。」

「唐揚げ？いいけど、アスリートなのに何でも食べていいの？」

「うん。俺の場合、痩せてるからむしろ食べろって言われてる。」

普通なら彼女をどこか食事に連れて行ってあげなきゃなんないんだろうけど、自分の場合あっという間に週刊誌のネタにされるから、さすがにそれは出来ない。

でもこうして二人でのんびり過ごしながら、ご飯を食べたりできるのは、この神社があるおかげだ。

「ふーん。そう言えばホテルでルームサービスを頼む時も、少食だって言ってたね。あの時は本当にドＳだったけど、今とのギャップがある意味感慨深いよ。」

「それ言うか？あん時は…いや、あれが俺の本質だから。」

もう取り繕う必要もない。Aさんは全部分かってるだろう。
俺がAさんの前でだけ、ありのままをさらけ出していることを。

「でも、我がままはほどほどにね。」

「分かってる。」

指についたご飯粒を食べながら、いつまでも子供みたく振る舞うつもりはないし…と心の中で呟く。

「あ、そうだ！ホテルで思い出した。私羽生くんに言わなきゃならない事があるんだ。」

「え、何？」

ちょうどおにぎりを食べ終えて、ごちそうさまと手を合わせたら、少し嬉しそうにAさんが、ぽんと手を叩く。
そして少し言いにくそうにこう告げた。

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