赤と黒のLiberations

【わかるでしょ。】7　☆ ページ44

☆主人公サイド

成り行きとはいえ、羽生くんがうちに泊まることになり、夜中だというのにあれこれ準備に追われる。

でも駅前まで出てあてもなくホテルを探すより、よっぽど気が楽だ。

「羽生くん、ここにタオルを置いておくからね。」

「ありがと。」

この離れはいつお客さんが来てもいいように、常に手入れされている。
まさか羽生結弦が泊まる日が来るなんて思っていなかったけど。

私はお風呂の使い方を説明して、布団だけ敷いておこうと押し入れを開けた。

「あ、明日は何時に起きるの？」

「んー？そうだなぁ。８時頃かな。」

そっか、じゃあまどかは学校へ行っていないな。
騒がしいから羽生くんがいることは黙っておこう。

「じゃあ８時に朝ごはん持ってきてあげる。」

「なんか悪いな、急に泊まることになったうえにご飯まで。」

「いいよ。良くあることだから気にしないで。」

むしろいつも家にいる自分としては、たまのお客さんが嬉しい気持ちもある。

「にしても…。ここほんと落ち着くわ〜。」

羽生くんが背伸びをしてリラックスしている。
五本指の靴下を履いている姿は、とてもあの世界的スケーター羽生結弦には見えない。
まるでごく普通の青年が、旅行に来ているようだ。

「羽生くんって神さまに好かれてるのかもね。」

「そっかな。」

布団を敷きながら、神社好きの若者なんてレアだなと思う。

「九尾も言ってたじゃない。羽生くんの中に八百万の神さまがいるって。」

神さまの位は横一線で順番とかはない。
その中の誰かが守護神として憑いる事も、面白いなと思ったのだ。

「もしそうなら、九尾を退治してくれりゃあいいのに。」

本心だろうか。
ふと少し悲しそうにつぶやいて、本当に九尾の存在が負担なんだなと思う。

「大丈夫！いつか私が絶対に退治するから。」

励ますつもりで、夜中にも関わらず元気よく告げたのだが…。

「つかさ、もっとしっかりしたやつが安倍晴明だったらよかったのにな。」

「……。」

出た、ブラック。
時々あるんだよね、こういう身も蓋もない発言。

失礼だなとムッとしていると、あ、おみやげ渡すの忘れてた。と気にする素振りもなく、さらにマイペースに振る舞う羽生くん。

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