赤と黒のLiberations

【困惑】5　☆ ページ5

「テレビにも観客席映るでしょ。」

スケートは観客がとても多い競技だから、中には妖怪に取り憑かれた人がいるかもしれない。

嫌なものを視る前に、さっさと自室へ行こうと踵を返したら、不意にテレビが羽生くんを映した。

「相変わらずかっこいいわ〜、ゆづくん。」

お母さんがうっとりしながら呟く。
練習中の映像かな。黒い上下を着て氷の上を滑ってゆく彼に、なんとなく目が釘付けになる。

へぇ…本当にかっこいい。
すらっとした体型が嫌味なくらい様になってる。

『ここで少し身体のバランスが崩れましたね。』

怪我をした時のシーンだろう。テレビの中のアナウンサーが残念そうに言うのと同時に、羽生くんの身体が、着氷に耐えきれずに氷と接触した。

あれ？今羽生くんの足元に何かいたような…。

「痛そう〜。もうこんな場面放送しなくていいわよ。」

お母さんがチャンネルを変えようとリモコンを手に取る。
でも私は、ジャンプを跳ぶ瞬間の映像に猛烈な違和感を感じて、チャンネルを変えさせないよう、そのリモコンを奪い取った。

「あら、どうしたの？」

「いいから黙ってて。もう一回さっきのシーン映んないかな〜…。」

「悪趣味ねぇ、ファンに怒られるわよ。」

「そんなんじゃないよ。…あ！」

テレビというものは残酷だ。ご丁寧にスローで再び転倒のシーンを放送してくれて、私はここぞとばかりに目を凝らす。

するとぼんやりだけど、氷の上におかしな獣がいるのが視えた。
あれは…。

「犬…。」

いや、そんな生優しいものじゃない。
羽生くん自身からも、かなりすごいオーラを感じるのに、Ｂ級の妖怪がおいそれと近寄れるはずがない。
だとしたら…。

何度もスロー再生される中、ジャンプの瞬間、ふわりとした白い尾が複数視えた気がして、さらに目を細める。
まさか一匹じゃないのかな…。

口許に手をあてつつあれこれ想像していると、ぱっと画面が切り替わってライブ映像になった。

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