赤と黒のLiberations

【困惑】11　★ ページ11

★ゆづサイド

ループがはまらない。
世界選手権へのエントリーを公表してから数週間、もうトロントを出発して飛行機の中だというのに、直前から一気に調子が降下してしまった。

「……。」

日本へ向かう空の上で、一人ため息をつく。
まだ怪我も完全に治ってない中、多少無理をしても世界選手権に出るのは、これが来年の枠取りに影響する試合だからだ。

痛み止めを飲んでなきゃ、とても出場できる足じゃないのは分かっている。
だけど、出るからには勝たなきゃ意味がないので、今日まで最善を尽くして練習してきた。

「はぁ…。」

再び、今度はさっきと違うニュアンスのため息をつく。
日本に着いたら、またたくさんのマスコミに囲まれるだろうなという疲労感。
嫌じゃないけど、時々まじで疲れるわ。

それまで少しでも気分良くいたいので、俺は長距離フライトに必要不可欠な、ファンからの手紙を読むことにした。

何通かかばんから取り出して、簡易テーブルに並べる。
ざっと見ただけでも、どうしてもプーさんや羽のデザインが多いのだが、その中で、ふと一際シンプルな封筒が目についた。

「何これ、めっちゃ和風じゃん。」

しかも宛名などの表書きが毛筆でしたためてある。
なかなか達筆だなと思いながら、まずこの手紙から読もうと、丁寧に封を開けた。





“拝啓

桃の香り麗しい春分の候。
貴殿におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。”


「……。」

え、何これ、めっちゃ本格的なんだけど。
まさか冒頭に季節の挨拶をぶっ込んできてるとは思わなかった。

…でもたまにいたよな、こういう文面のファンレター送ってくる人。
だいたい年配の方から頂くことが多かったなと思いつつ、さらに読み進めていく。

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